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トルコのメトロ・イスタンブール、市内の各種鉄道の運用効率を高めるため全駅のデジタルツイン構築へ
トルコのメトロ・イスタンブール(İstanbul metrosu)は、鉄道システムの運用効率を高めるために全駅を対象にしたデジタルツインの構築に取り組んでいる。運行効率を最大37.5%高め、エネルギー消費量とメンテナンスコストをそれぞれ最大25%削減できると見込む。デジタルツインプロジェクト エグゼクティブのシャバン・クシュ(Şaban Kuş)による「Autodesk University 2024」(主催:米Autodesk、2024年10月15日〜17日)講演から、同社の取り組みを紹介する。
「鉄道運営における総コストのほとんどは、エネルギー消費量とメンテナンスコストが占めている。持続可能な運行においては、これらを見直し削減していかなければならず、そのためのデジタルツインの構築・活用が重要だ」――。トルコのメトロ・イスタンブール(İstanbul metrosu)でデジタルツインの構築プロジェクトのエグゼクティブを務めるシャバン・クシュ(Şaban Kuş)氏は、こう力説する(写真1)。
全18路線、総延長241.25キロ、235の駅の運用効率を髙めたい
メトロ・イスタンブールは、地方自治体のイスタンブール都市圏(IMM:ISTANBUL Metropolitan Municipality)が公共交通を運営するために持つ関連会社。市内に8つの地下鉄と、4つの路面電車、2つのライトレール(LRT:Light Rail Transit)、2つのケーブルカー、2つのロープウェーを運営する。合計18路線の総延長距離は241.25キロメートルで、駅の数は合計235になる。
同社の主な事業は、鉄道輸送の運行、メンテナンス、R&D(研究開発)の3つ。鉄道運行では、駅舎や、線路、電気機械などの設備や、制御・通信・電力・信号といったシステムなどを管理する。例えば電気機械では、約1800基のエスカレーターや約600基のエレベーターを保有するなど対象は大規模だ。
その維持管理には多くの時間や費用を割いている。同社の分析によれば、「鉄道の日常運用に6割、保守と突発的な故障対応に4割の時間を割いている」(クシュ氏)。そうした中で日常運用の安定を図るには、「保守コストを削減する必要がある。設備メンテナンスにかける時間が長くなると、実際の稼働時間が短くなっていくからだ」とクシュ氏は説明する。
日常運用を支えるシステムには大きく、(1)信号、(2)SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition:監視制御・データ収集)、(3)ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)、(4)メンテナンスの4つがある。クシュ氏は「さらなる効率化に向けては、これらシステム全体を管理し、単一の基盤を構築する必要がある」と強調する。
一方、日常運用におけるコストの多くはエネルギー消費である。特に(1)列車の駆動エネルギー消費と(2)駅の補助電力消費の2つに左右されるという。前者では電力を共有する変圧器の効率や架線の抵抗のほか、列車自体の加速度やブレーキなどの性能が、後者では駅構内の照明システムや空調のためのHVAC(暖房:Heating/換気:Ventilation/空調:Air Conditioning)システムなどが、それぞれ消費量に直接影響する。
鉄道の全システムを運用・監視するためのデジタルツインを構築
運行効率を高めながらエネルギー消費を抑えるためにメトロ・イスタンブールが構築を進めるのが、全路線・全駅舎を対象にするデジタルツインである。「運用効率の最大37.5%の向上と、エネルギー消費量とメンテナンスコストの最大25%の削減が目標」(クシュ氏)だ。
デジタルツインの構築では、その成熟度モデルを5段階に分けたロードマップを描いている。(1)記述的(Descriptive)、(2)情報提供型(Informative)、(3)予測型(Predictive)、(4)包括的(Comprehensive)、(5)自律型(Autonomous)だ。クシュ氏は「2024年第4四半期時点では(3)予測型の段階にある」と自己評価する。
デジタルツインは、メトロ・イスタンブールが保有・運用する各種システムが持つデータをデータウェアハウスに集めた後、デジタルツイン基盤「Tandem」(米Autodesk製)に連携させて実現している(図1)。OT(Operational Technology:制御・運用技術)データなど外部システムのデータは、連携ツール「Tandem Connect」(クシュ氏)を使って統合する。
Tandemには、駅舎や線路などの3D(3次元)BIM(Buliding Information Management:建物情報管理)モデルを紐づける。メトロ・イスタンブールとIMMは、路線設計の段階からBIMを活用する取り組みを進めている。すでに「M7線(Yıldız-Mahmutbey Metro Line:イルディス-マフムトベイ線)においてBIMモデルの作成が完了している」(クシュ氏)という。
保守現場でのダウンタイムとメンテナンス時間の削減に向けては、ERPシステム「SAP」(独SAP製)とも連携する。SCADAシステムが検知した設備異常のアラートは、Tandemに集約した後、ERPシステム経由で点検員にメンテナンス依頼を送付できるようにもした。点検員はTandemから必要な図面やドキュメントにアクセスできるという。作業完了後も「作業内容の報告はERPシステムにも送られ、レポートを必要とする関係者が共有するまでを自動化している」とクシュ氏は説明する。