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鮮魚チェーンの角上魚類、新潟・東京の2拠点での戦略的仕入れにデータを活用

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年2月10日

過去の買い付け情報を元に戦略的な買い付けを可能に

 そうした課題の解決策として角上魚類は、買い付けデータなどを参照・共有するためのダッシュボードを活用している(図1)。エリアや期間、仕入先、魚種などを選べば、過去の買い付けデータを元に、仕入れ高や値入率などが確認できる。2023年11月から本番運用している仕組みだ。

図1:角上魚類が利用するダッシュボードの画面例(出典:モンスターラボ)

 バイヤーはタブレット端末を使って市場での仕入れ時に、前年や前月、前週などと範囲を絞り込みながら過去の買い付けデータを確認することで、「市場の値動きに合わせ、コストや利益率を加味した戦略的な買い付けが可能になった」(坂ノ下氏)という。

 加えてダッシュボード導入後は、「担当者が不在時でも相場や規格などを比較した買い付けができるようになった」と坂ノ下氏は話す。角上魚類では、バイヤーごとに担当する魚種を決めている。従来は「個人の勘と経験に依存していた」(同)が、ダッシュボードによるデータ活用により「業務の平準化も図られている」(同)とする。

 今後は、さらなる売り上げ拡大に向けてダッシュボード機能を拡充していく考えだ。「バイヤーは仕入れ原価を追求しなければならず、仕入れ金額や利益率、粗利率までを意識できることが重要だ。現場が使えるデータを増やし、バイヤーによる分析の高度化を図りたい」と椎名氏は力を込める。

セリ業務を対象にした専用アプリを自社開発

 ダッシュボードで活用する買い付けデータは、バイヤーが日々利用する専用アプリケーション「セリ原票アプリ」から取得している。セリ原票とは、買い付けた鮮魚の種類や産地、数量などを記載した帳票のこと。同アプリは、紙ベースのセリ原票を電子化した仕組みで、セリ業務の効率化と2つの市場間でのバイヤーのコミュニケーションの強化を目的に自社開発し、2022年10月から利用している。

 それまで、新潟と豊洲の2つの市場間でバイヤーが価格や数量を情報交換する手段は電話が主だった。しかし、電話では複数人との情報共有は難しく、加えてどれくらいの数を、どの店に送ったかという仕入れ結果としての数量しか分からず、過剰在庫や欠品のリスクがあった」(坂ノ下氏)

 セリ原アプリに入力した内容は、本社側でも確認できる。買い付けデータも即時に共有できるため、「バイヤーが振り分けた各店舗への配送数量の指示に正確さが増した。仮にバイヤーの入力が誤っていても少しの訂正で済むため、業務時間の削減にもつながっている」と管理本部 システム企画課 課長の丸橋 剛 氏は話す。従来では「FAXで送られてきた手書き帳票の内容を事務員がチェックしていた」(同)という。

 セリ原票アプリの開発は、2021年3月に始動した基幹システム刷新プロジェクトと連動してスタートした。当時、「生鮮品発注のためのパッケージ製品はあっても、鮮魚の買い付けに適した製品は見当たらなかった」(丸橋氏)。近しい製品も「カスタマイズにかなりの時間とコストがかかると判断し、自分たちで1から作るべきだと判断した」(同)。要件定義や設計・開発では、ソフトウェア開発を請け負うモンスターラボの支援を受けた。

 セリ原票アプリには、買い付けた情報に紐づける形で、入荷状況を配送課の担当者がカメラで撮影しチェックできる機能を持たせている。「商品の不足や過剰、配送先店舗までを入荷時に確認できるため誤配送が減少した」(坂ノ下氏)とする。従来は「紙の帳票と携帯電話やスマートフォンで撮影した写真を見比べながら入荷をチェックしていた」(同)

 セリ原票アプリは現状、平常業務での利用が中心だ。坂ノ下氏は、「市場が休みの日や年末などイレギュラーな状況下での買い付けにも対応できるようにしたい」と話す。具体的には、「バイヤーが事前に商品を選び、漁業者から商品を預かる卸売業者と、取引を仲介するセリ人を巻き込み、後日に伝票を処理するような仕組みを考えている」(同)

 管理本部 システム部 部長の内田 貴之 氏も「セリ原票アプリは、顧客により良い魚を届けるための仕組み。当面は本業の売り上げ向上への寄与が目標だ」と話す。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名角上魚類
業種流通・小売り
地域新潟県長岡市(寺泊本社)、さいたま市岩槻区(美園本社)
課題気候や為替の変動など仕入れ価格を左右する要因が増える中、顧客が求める新鮮な魚を安価に提供し続けたい
解決の仕組みバイヤーが買い付け業務に利用している専用アプリケーションのデータを蓄積・分析し、買い付け傾向などを可視化するダッシュボードを用意し、利益率なども加味した仕入れができるようにする
推進母体/体制角上魚類、モンスターラボ
活用しているデータ魚の魚種、仕入れ価格、粗利などの仕入れデータ
採用している製品/サービス/技術バイヤー向けセリ業務アプリケーション「セリ原票アプリ」(自社開発)
稼働時期2022年10月(セリ原票アプリの本格運用開始時期)、2023年11月(ダッシュボード機能の運用開始時期)