日本触媒、化学プラントを自動運転するためのAIシステムを導入へ

　日本触媒が成功させたのは、化学品の純度を高める連続蒸留工程における温度制御をAI（人工知能）システムによって自動化を図る実験（図1）。これまで熟練の運転員が常時手動で制御してきた運転業務の負荷を減らし、経験の浅い運転員でも操業できるようにするのが目的だ。同時に技能継承プロセスの効率化も期待する。

図1：日本触媒が実験に成功した化学プラントの自動運転システムの位置付け

　化学品の連続蒸留工程では、蒸留塔内で生成する留出液の液面の高さが、蒸留効率や成分分離に影響する。しかし液面は、（1）留出液の流出量や再利用量、（2）同時に流入する反応液の組成変化、（3）天候などの外部要因などの影響を受けて変動する。そのため、理想的な液面を保つために塔内の温度や圧力を管理・制御することが重要になる。

　今回の実験では、連続蒸留工程の運転データと運転員の操作履歴、熟練者の運転ノウハウを学習させたAIモデルを用意し、一定時間ごとに流れ出る留出液の量を元に塔内温度を正確に制御できるかどうかを評価した。結果、AIモデルを使った運転では、液面計の実測時と理想液面の誤差が平均2.06％だった。運転員が手動で操作する際の誤差が平均2.38％のため、AIシステムが手動操作と同等以上の運転品質を実現できたことになる（図2）。

図2：AIモデルを使った自動運転時の液面の変動パターンと理想液面に対する実測値の誤差の推移

　システムは、NTTコミュニケーションズの自動運転システム「AI Autopilot System」に、先のAIモデルを組み合わせて開発した。従来、AI Autopilot Systemでは、稼働状態があまり変化しない化学プラントの自動運転にのみ対応できていた。AIモデルを組み込んだことで変動の大きいプラントでも自動運転の有効性が確認できたとする。

　日本触媒は今後、装置ごとに製品を生成するバッチプラントや多品種少量生産のプラントなどにおける手動操作に対し、今回のシステムを適用し、それぞれの自動化を図っていく。一方のNTTコムは、開発したシステムの機能を拡張しながら、他産業に対しても自動運転システムとして展開したい考えだ。

　日本触媒によれば、化学プラントの運転は、温度や圧力など蒸留塔内の状態が変化し続けるため、それを制御するための知識と経験が求められ自動運転は困難だとされてきた。今回自動化に成功した温度制御も、熟練運転員が常時手動で操作しており、その技術継承が課題になっている。