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アマダ、EV・半導体市場にM&AとDX関連ノウハウで攻勢を掛ける

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年6月13日

金属加工機大手のアマダは事業拡大の柱に、自動車業界での存在感の向上と半導体市場の拡大を位置付ける。そのためにM&A(企業と統合・買収)に合わせて、自社で取り組んできたDX(デジタルトランスフォーメーション)でのノウハウやソフトウェアなどを付加することで、全体プロセスの最適化に向けた提案を強化する。顧客との共創も進める。

 「当社は『長期ビジョン2030』において、2030年に5000億円の売り上げ目標を掲げている。その達成に向けて、自動車業界における存在感を高めると同時に、新規事業領域として半導体市場の拡大を図る」−−。アマダの代表取締役社長執行役員の山梨 貴昭 氏は、同社の事業戦略をこう説明する(写真1)。

写真1:アマダ 代表取締役社長執行役員の山梨 貴昭 氏

 事業拡大に向けた打ち手の1つがM&A(企業の統合・買収)だ。自動車業界での存在感強化にむけては2025年1月、大型・超大型プレス機に強みを持つH&Fを買収した。「既に形式的な統合は完了し、本格的な協業を進めるPMI(Post Merger Integration:統合後の協業プロセス)の段階に入っている」と山梨氏は話す。アマダのプレス機はこれまで、中・小型機が主力で顧客は主に部品メーカーだった。今後は「直接のアプローチが難しかった自動車メーカーや、そこに部品を直接納品するTier1サプライヤーとの顧客接点を強化していく」(同)考えだ(図1)。

図1:大型プレス機に強いH&Fの買収により自動車業界における存在感を高める

 一方の半導体市場の拡大に向けては2025年4月、基盤穴あけ機のビアメカニクスを買収した。同社は、半導体製造の前工程に不可欠なパッケージ基板などの微細加工技術で世界的なシェアを持っている。そこに、アマダのレーザー加工機を使ったパッケージ基板でのマーキングのバリ取りや、はんだ付けなど後工程に向けた提案を追加することで「前工程と後工程とを通して可視化できる仕組みとして訴求したい」(山梨氏)考えだ(図2)。

図2:微細加工技術で世界的シェアを持つビアメカニクスの買収による相乗効果と将来的な狙い

取り組んできたDXのノウハウを付加しプロセス全体の最適化を提案

 M&Aで手にした機械や技術に対しては「アマダが取り組んできたDX(デジタルトランスフォーメーション)のノウハウを適用し、全工程の自動化と工場全体の可視化を進めることで、設備の稼働保証やサービス体制を強化し顧客満足度を高めていく考え」(山梨氏)である。

 具体的には、自社開発する製造工程管理ソフトウェア「LIVLOTS(リブロッツ)」やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)基盤「V-factory」(同)の適用だ。例えばビアメカニクスの加工機に対してアマダの自動化とIoT技術を組み合わせることで「製造プロセス全体の最適化までを提案したい」と山梨氏は意気込む。

 加えて顧客企業との共創を拡大するため、神奈川県伊勢原市の本社敷地内にある検証施設「AGIC(アマダ・グローバルイノベーションセンター)」の活動も活発化させる。中でも2023年にAGIC内に開設した「Innovation LABO」に期待する。イノベーションセンター長の岸本 和大 氏は「既に自動車メーカーとTier1との検証実績が生まれており、メーカー系の利用者が全利用者の3分の2を占めている」と明かす(写真2)。

写真2:アマダ イノベーションセンター長の岸本 和大 氏

 Innovation LABOには、顧客専用の個室ラボが9部屋あり、顧客が持ち込んだ図面や材料に対し、アマダの加工機械を使った加工を非公開環境で同社技術者と共に検証できる。最近は「EV(電気自動車)や半導体分野の研究開発が増えている」(岸本氏)という。

 例えばEV関連では「EV用モーターの小型化・大トルク化・高効率化を実現するための開発が加速している。溶接のスピードに加え、溶接時に溶けた金属が飛散するスパッタの抑制が求められるほか、新素材・難加工材の溶接や、顧客の製品設計にまで踏み込んだ加工方法の開発・提案などが期待されている」と岸本氏は話す。

 AGICの来場実績は2024年までに国内外から約8300社、1万8000人だという。岸本氏は「LABOでの検証数を2025年度は前年度比1.5倍にまで伸ばす」と意気込んでいる。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名アマダ
業種製造
地域神奈川県伊勢原市(本社)
課題自動車業界での存在感強化や新規事業としての半導体事業を拡大したい
解決の仕組みM&Aによって品ぞろえを拡大すると同時に、DX関連の製品やノウハウを組み合わせることで、製造工程の自動化や可視化などプロセス全体の最適化を提案できるようにする
推進母体/体制アマダ
活用しているデータ加工機に投入する加工条件データ、装置の稼働データなど
採用している製品/サービス/技術製造工程管理ソフトウェア「LIVLOTS」(アマダ製)、IoT基盤「V-factory」(同)
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