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ANA、CXの高度化と非航空事業の拡大に向け全社員のデータ活用を急ぐ

デジタル変革室 イノベーション推進部 データドリブンチーム リーダー 井岡 大 氏と同チーム 客室乗務員 三好 真央 氏

阿部 欽一
2025年7月24日

 そうした取り組みの中で三好氏は「まずはデータ活用の世界観を示し、CAを支えるスタッフ部門の業務効率化に着目し、小さな成功体験を積み重ねていくアプローチを採った」と説明する。「部門間の信頼関係を生み出し、やがて全体の変革を牽引する力へと変えることを目指した」(同)からだ。

 データ活用の先導役としては「変革を推進する業務部門に自立を促すことを目標とした」(三好氏)。結果、客室センターでは「CAやスタッフ部門の職員が互いに学び合い、非言語情報から感情や働き方、価値観などをくみ取り相手を理解したうえで主張するアサーティブなコミュニケーション環境が生まれた」(同)という。

 加えて、CAや事務職員がBI(Business Intelligence)ツールの利用向上に向けた取り組んだ「自主的にセミナーを開催して仲間を増やすなどの活動が、自らの意志で考え行動する“自立・自律”につながった」と三好氏は話す(図2)。

図2:データ活用のための自主セミナーなどの活動が現場の“自立・自律”につながっているという

業務の自動化を図る生成AIアプリの管理環境も整備

 客室センターではデータ活用によるCXの高度化にも取り組んでいる。機内サービスに関する搭乗客のVoC(Voice of Customer:顧客の声)を分析し、改善策を検討したり機内サービスの向上にフィードバックしたりするなどだ。

 VoCは自由記述形式のためテキスト化しても、その分類・集計は手作業だった。そこでデジタル変革室は、生成AI(人工知能)サービス「Amazon BedRock」(米AWS製)を使った業務アプリケーションを開発し自動化を目指している。PoC(Proof of Concept:概念実証)では「73%の精度で分類できており、分類作業の約70%を削減し、年間では135時間相当の業務時間短縮を実証できた」(井岡氏)とする(図3)。

図3:VoCの自由記述を分類・集計する生成AIアプリケーションを開発した

 BlueLake上では、生成AIサービスを管理するためのアプリケーション「BlueLake AIVO」も開発した。三好氏は「データにAI技術を掛け合わせることで、これまでにない価値の創出を目指す。客室センターでの変革の取り組みは始まったばかりだが、顧客の期待を超えるサービスや、感動的な体験の提供を追求していく」と意気込みを隠さない。

 将来的なデータ分析・AI基盤の統合を見据えANAは今「モジュール化された疎結合アーキテクチャーへの移行を進めている」(井岡氏)。「データストレージと処理レイヤーを分離した2層構造により、処理・分析機能の独立性を高め、データの一貫性を担保する」(同)のが目的だ。

 新しいアーキテクチャー下では「特に個人情報を扱う部門では、個人情報保護法やGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)など国内外の法規制を遵守しながら、個人情報の削除請求に対応したり、それによる不整合が起きたりしないようにできる」(井岡氏)とする。オープンソースのデータセット向けオープンテーブル「Apache Iceberg」の導入にも着手している。

AIとの協働を見据え“人間力”と“内製化力”を磨く

 井岡氏は「今後はAIエージェントが業務を担うことも見据える」としたうえで「単なる自動化ではなく、人とAIが協力しながら最適な判断を下す環境を整備することで、高い次元の顧客体験を実現したい」と力を込める。

 そこでは「AI時代に必要なケイパビリティとして、自動化をDXの真の推進力に変える“人間力”と、迅速な意思決定を実現する“内製力”の両面を磨いていくことが重要だ」と井岡氏は強調する。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名全日本空輸(ANA)
業種交通
地域東京都港区(本社)
課題CX(顧客体験)の高度化と非航空事業を伸ばすために、全社員がデータを活用できる文化を醸成し、現場の知見を組み合わせて価値を最大化したい
解決の仕組み共通データ基盤を整備し、デジタル変革室が現場のデータ活用を後押しする
推進母体/体制ANA、ANAシステムズ
活用しているデータサービスに関する顧客の声(VoC)、乗務スケジュール、教育計画などグループ内外の事業に関するデータ
採用している製品/サービス/技術生成AIサービス「Amazon Bedrock」(米AWS製)、オープンソースのデータセット向けオープンテーブル「Apache Iceberg」
稼働時期2022年(BuleLakeの稼働時期)