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ANA、CXの高度化と非航空事業の拡大に向け全社員のデータ活用を急ぐ
デジタル変革室 イノベーション推進部 データドリブンチーム リーダー 井岡 大 氏と同チーム 客室乗務員 三好 真央 氏
全日本空輸(ANA)グループが全社的なデータ活用を加速させている。その司令塔であるデジタル変革室からイノベーション推進部 データドリブンチーム リーダーの井岡 大 氏と同チーム 客室乗務員の三好 真央 氏が「AWS Summit Japan 2025」(主催:アマゾン ウェブ サービス ジャパン、2025年6月)に登壇し、データ基盤を軸に現場の主体的なデータ活用によるCX(Customer Experience:顧客体験)の高度化と非航空事業への展開を説明した。
「CX(Customer Experience:顧客体験)の向上にはデータ活用が不可欠だ。そのために部署や職種の壁を越えグループ全体が“自立・自律”の意識を持って相互に協力し合える文化を醸成したい」--。全日本空輸(ANA) デジタル変革室 イノベーション推進部 データドリブンチーム リーダーの井岡 大 氏は、ANAのデータ活用戦略が目指すところを、こう説明する(写真1)。
ANAグループ約4万人の誰もがデータを活用できる環境を作る
ANAグループは、2022年に創立70周年を迎えたのを契機に、新たな経営ビジョン「ワクワクで満たされる世界を」を策定した。そこでは「航空輸送事業を中核にしながらも、空港・旅行・物流など“ノンエア事業”を強化し、顧客にシームレスな移動体験を提供できるエアライングループへと進化する」(井岡氏)のが目標だ。
そのなかでデジタル変革室は「ANAグループのデジタル戦略の司令塔の役割を担っている」(井岡氏)。運航、客室業務、マーケティング、オペレーションなど航空事業を支える各業務部門と、システム開発を担うグループ会社ANAシステムズの両者の間に立ち、ビジネスとデジタルを結び付ける。
新たな経営ビジョンの実現に向けては「データの活用によって現場の創意工夫や顧客接点から得られるインサイト(洞察)を最大化する」(井岡氏)。そのためにANAのグループ社員約4万人を対象に「“データの民主化”を掲げ、誰もがデータを活用できる環境づくりに取り組んでいる」(同)という。
その基盤になるのが、2022年に稼働したグループ共通のデータレイク「BlueLake」である(図1)。井岡氏は「利用者のスキルレベルに応じたアクセス権限の整備や、ツールテンプレート(ひな形)を提供し、各部署の業務担当者自らがデータ分析や活用に着手できるよう設計している」と紹介する。
BlueLakeを使ったデータ活用に向けた人材育成や、ガイドラインの整備、全社横断のデータマネジメント構想も並行して推進する。「現場の柔軟性とガバナンスを両立させながら、全社的なデータ活用文化の醸成を進める。“協創”をスローガンに、そうした文化をいかに組織に根付かせるかが重要だ」と話す。
客室乗務員をデジタル変革室のスタッフに加え現場の変革をけん引
データの民主化による協創事例の1つに、約8000人の客室乗務員(CA)を擁する客室センターとデジタル変革室との取り組みがある。CAの有志をデジタル変革室の「スタッフアドバイザー」として配置し、データに基づく改善策の現場への定着を図る。
コロナ禍による大打撃を受けた2020年、ANAでは「国内線・国際線の利用者数が約75%減少し、CAの業務は大きく制限された」(井岡氏)。これを契機にCAのスタッフアドバイザーとしての配置がスタートした。
三好 真央 氏が、その1人(写真2)。デジタル変革室 イノベーション推進部 データドリブンチーム 客室乗務員として定期的に乗務しながら、CAの知識や経験を生かして主に地上勤務を担当している。応募の経緯を三好氏は「CAの経験と現場の知見、そしてデータを掛け合わせて、ANAのおもてなしの進化に貢献したいため」と話す。
デジタル変革室のスタッフとしては「客室センターのスタッフ部門と連携し、データに基づく現場の改善や新たな品質向上策の立案に従事している」(三好氏)。例えば、サービス品質や安全性に関するデータを集計・可視化し、乗務スケジュールや教育計画の最適化を図り、フィードバックサイクルの改善を図るなどである。