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AI Shift、SaaSへのAIエージェント実装ではデータ統合とクエリーの自動生成が鍵に

「SaaS on OCI Forum 2025」より、AI Shift 執行役員 CTO青野 健利 氏

岡崎 勝己(ITジャーナリスト)
2025年8月19日

企業のAI(人工知能)技術の活用は新たな段階に移行し、業務を自律的に遂行するAIエージェントが注目を集めている。AI Shiftの執行役員CTO(最高技術責任者)を務める青野 健利 氏が「SaaS on OCI Forum 2025(主催:日本オラクル、2025年7月17日)」に登壇し、対顧客サービス領域での利用が進むSaaS(Software as a Service)環境においてAIエージェントを利用するための実装ポイントを解説した。

 「近年、生成AI(人工知能)市場は急速に進化しており、その活用に多くの企業が取り組んでいる。しかし、企業が生成AI技術を実装していくには現状、大きく3つの課題が浮上している」--。AI Shift 執行役員 CTO(最高技術責任者)の青野 健利 氏は、こう指摘する(写真1)。

写真1:AI Shift 執行役員CTO(最高技術責任者)の青野 健利 氏

 AI Shiftは、サイバーエージェントのグループ会社でAI技術の利用推進を担っている企業だ。2019年に創業し「人とAIの協働を実現し人類に生産性革命を起こす」をミッションに掲げている。チャットボットの開発からスタートし、現在はコンタクトセンターに向けて電話応対を自動化するボイスボットの「AI Messenger Voicebot」とチャット応対を自動化する「AI Messenger Chatbot」に加え、企業専用AIエージェント構築プラットフォーム「AI Worker」を提供している。

AIエージェントのためのデータ統合に「Oracle Autonomous Database」を採用

 冒頭、青野氏が指摘した生成AI技術活用上の3つの課題とは(1)市場の流動性、(2)AIエージェントへの期待、(3)精度担保の困難さである。

 市場の流動性とは「AI領域では次々に新しいモデルやサービスが登場している」(青野氏)ことだ。日々、新たなAIモデルやAIサービスがリリースされるものの「その進化に企業が追随していくのは困難」(同)という実態がある。

 加えて昨今は、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の単体利用だけでなく、外部のAPI(Application Programming Interface)を組み合わせて、各社の業務を自律的に処理するAIエージェントが登場し、期待が高まっている。

 だがAIエージェントも完全な仕組みではない。1つは、人が指示しなくても計画を立て実行できる一方で「誤った判断をしてしまうリスクを伴う」(青野氏)ことだ。もう1つは、生成AIの回答精度を高めるためのRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)技術よりも「はるかに精度の担保と仕組みの検証が難しい。最悪の場合、データ領域を破壊してしまう恐れがある」と青野氏は言う。

 さらに、現時点で高精度なRAGやAIエージェントなどの仕組みを構築するためには「複数の領域をまたがった経験やスキルを持つ専門家が不可欠になる」としたうえで青野氏は、こう説明する。

 「生成AI領域では、UI(User Interface)/UX(User Experience)をはじめ、アプリケーションやインフラなど全てのレイヤーに精通していなければ、高精度な結果を出せるAIシステムの開発は困難である。これらの多岐に亘る知見を有した専門家が不可欠なため、多くの企業にとって内製により利用するのは非常に難易度が高い」

 これらの課題やAIエージェントの問題の解消に向けてAI Shiftが提供するのが、企業専用AIエージェント構築プラットフォームのAI Workerである。複数のLLMモデルと、ワークフロー、AIエージェントを管理・構築するプラットフォームサービスだ。

 AI Workerでは、各種クラウドベンダーとの協業により、複数サービスに対する統合UIとデータベースの利用を可能にする。「開発・運用コストを抑えながら、ユースケース(利用場面)の拡張性を担保する」(青野氏)。「Web SDK(Software Development Kit)」を用意し「AI Workerで構築したAIエージェントをWebページ上に埋め込んで利用できる」(同)という。

 AI Workerが統合データベース環境として採用するのが、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)上で提供される自律型データベースサービス「Oracle Autonomous Database」(米Oracle製)である。Oracle Autonomous Databaseを介して各社が持つ独自データを利用することで、業務プロセスに適したAIエージェントの設計・運用を可能にする。

 青野氏は「RAGや構造化データ/非構造化データの別を問わず、全てのデータをOracle Autonomous Databaseに統合するとともに、それらのデータをAIエージェントが検索・活用できる仕組みを実現し企業の業務改善を支援する」と説明する。