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新菱冷熱工業、BIMを活用し施工現場への業務集中をオフサイトとバックオフィスに分散

デジタルトランスフォーメーション推進本部 副本部長の斎藤 佳洋 氏とBIM 課長の酒本 晋太郎 氏

阿部 欽一
2025年8月19日

BIMデータと基幹システムのデータを連携し経営分析に利用

 BIM課は現在「約170人体制で、BIM環境の整備やツールの普及、人材育成に取り組んでいる」(斎藤氏)。BIMソフトウェアには「Revit」(米Autodesk製)を使用し、データは建設業向けクラウド「Autodesk Construction Cloud(ACC)」(同)で管理し、プロジェクト関係者で共有する。BIM課長の酒本 晋太郎 氏は「Revitで作成したモデルを信用できる唯一の情報源(SSOT:Single Source of Truth)に位置付けることがDXの鍵になる」と強調する(写真2)。

同社 デジタルトランスフォーメーション推進本部 BIM 課長 酒本 晋太郎 氏

 そのために最も重視しているのが、ACCと社内の基幹システムを連携させた「統合データベース」の構築である。「統合データベースのデータを分析・可視化することで、経営判断にも資するDXの実現を目指す」(酒本氏)とする(図2)。

図2:ACCが管理するBIMデータを統合データベースと連携し経営判断にも利用する

 BIMの社内浸透に向けては(1)BIMを基本とした施工を目指す、(2)現場はACCで管理・運営する、(3)施工DXはACCとRevitで実現するという3つのメッセージを発信している。

図面等の事前レビューや指摘で会議時間を大幅に短縮

 こうした取り組みの成果として酒本氏は「ACCによる指摘事項機能の活用」を挙げる。従来、施主による承認では「関係者が増えると回覧期間が長期化し、書類も増えていた。図面回覧会議では1〜2時間を要していた」(同)。それがACC上での事前レビューや指摘事項の入力・修正により「会議時間は約10分にまで短縮できた。関係者の「物理的な移動や待ち時間も大幅に削減した」(同)という。

 その背景には「当初は“会議ありき”という認識の下、全体が集まって指摘事項を確認していたが、事前のやり取りが有効との認識が浸透したことがある」と酒本氏は説明する。

 進捗管理では、RevitモデルにACC上で進捗状況を入力し、BI(Business Intelligence)ツール「Power BI」(米Microsoft製)で出来高を定量的に可視化・把握できるようにしている。「遅延箇所の早期発見や原因推定につなげ、対策を素早く講じる」(酒本氏)ためだ。工程表や発注データなどもACCに集約している。

 機能分散により配管や各種設備はユニット単位でオフサイトで組み立てるほか、小規模拠点ではユニットを必要に応じて現場近くの「門前倉庫」に保管する(図3)。オフサイト拠点に対しては「BIMデータからユニット生産に必要な3Dモデルと制作図を自動生成し共有するシステムを内製開発した」(酒本氏)

図3:オフサイト拠点におけるユニット組み立てと現場輸送の流れ

 BIM人材の育成では、新入社員向けのオリジナル教材も開発した。酒本氏は「Autodesk日本法人の協力を得ながら、課題抽出とアクションプランの作成に取り組んでいる。指摘事項データを分析することで、講習内容や教材を改善するPDCAサイクルが確立されている」と説明する。

社内外にBIMの仲間を増やし業界全体で恩恵を享受する

 今後の課題として酒本氏は「BIM普及に向けた“ニワトリと卵”のジレンマの解決」を挙げる。「BIMは人材がいないと現場に導入できないが、現場がなければ人材が育たない」(同)というジレンマだ。

 解決に向けては「社内外に仲間を増やしていく必要がある」と酒本氏は考える。そして「コンテンツの充実と教育を強化するために、自社だけでなく、社外の教育者によるBIM教育も推進していく方針」(同)だ。そこでは「海外の先進的な取り組みを持つ企業との積極的な情報交換にも期待する。グローバルな知見から新菱冷熱のBIMをさらにブラッシュアップしていきたい」(同)という。

 斎藤氏は「施工業者や協力会社を含めたサプライチェーン全体でのワークフローを構築し、業界全体で(BIM活用の)恩恵を享受していきたい」と訴える。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名新菱冷熱工業
業種製造
地域東京都新宿区(本社)
課題施工現場に作業を集中させてきた従来モデルは、熟練の高齢化と若手人材の減少などにより、その持続可能性に限界を迎えている
解決の仕組みBIMを基盤としたデータ活用により、施工業務を現場とオフサイト、バックオフィスに分散させる
推進母体/体制新菱冷熱工業、米Autodesk日本法人
活用しているデータBIMモデル、施工進捗状況、指摘事項とその履歴、工程表、発注データなど
採用している製品/サービス/技術BIMソフトウェア「Revit」(米Autodesk製)、建設業向けクラウド「Autodesk Construction Cloud」(同)、BIツール「Power BI」(米Microsoft製)
稼働時期2024年2月(米AutodeskとのMOU締結時期)