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三菱マテリアル、事業横断をITで支援し現場の“気づき”と主体性を育む
システム戦略部 CIO(最高情報責任者)板野 則弘 氏
DX成功の鍵は現場の“自分ごと化”と“失敗を許容する”空気感
一方、DX戦略の実行においては「IT人材不足」や「日本のSEは非効率」といった声が聞こえてくる。これに対し板野氏は「日本のSEのスキルが劣っているとは全く思わない。むしろプロジェクトにかかる人数・コスト・工期が欧米の数倍もかかっている構造こそが問題ではないのか」と疑問を呈す。すなわち「日本企業はITプロジェクトそのものをスリム化できるかどうかが問われている」(同)わけだ。
こうした前提に立ち板野氏は、DXプロジェクトの推進方法として比較されるトップダウン型とボトムアップ型のポイントを次のように説明する。
まずトップダウン型では「経営課題と結び付いた全社横断のテーマに対し、社内のエース人材や外部の有識者などで初期チームを編成し、フィージビリティスタディ(実現可能性調査)を通じて現場にバトンを渡すことが重要になる」(板野氏)
しかし「構想段階から本格運用フェーズまで、同じスペシャルチームが旗を振り続けているようでは、そのプロジェクトは失敗する」と板野氏は直言する。真に成果が出るのは「現場のメンバーが自分のプロジェクトとして主体的に関わり、運用段階に入ってから、つまり“自分ごと化”できる人材が現場に現れるかどうかがDXの成否を左右する」(同)ためである(図2)。
一方のボトムアップ型では、現場が業務課題に気づき改善を進めていく。しかし「単に“やりたい人”がいるだけではプロジェクトは動かない」と板野氏は指摘する。例えば「工場や拠点を訪ねると現場には必ず熱意のある人材がいる。その人たちの背中を押す仕組みを経営層が用意できているかどうかが鍵になる」(同)という。
具体的には「(1)失敗を許容する予算の付与、(2)セルフラーニングの機会提供、(3)専門家による伴走、(4)ITツールとデジタル環境の提供の4つの支援策を整備することが重要になる」と板野氏は説明する。加えて、現場での「なぜ彼らだけが優遇されているのか」といった“妬み”を防ぐために「マネジメント層の理解と明確なコミュニケーションも不可欠だ」(同)とする。
そのうえで板野氏は「DXの取り組みには“失敗に対する受容”が何より重要になる」と強調する。「新しいことをやるのだから失敗は当然起こる。心理的安全性を醸成する教育が必要不可欠だ。経営層が率先して失敗を許容する姿勢を示し、現場が安心してチャレンジできる空気の醸成こそがDXの土台になる」(同)からだ。
人を主語に考えれば、どんな変化にもブレずに対応できる
DXの本質について板野氏は「デジタル化によって可視化される“気づきの種”に対し、1人ひとりが創造性をいかに発揮できるかだ」と説く。「1人ひとりとは、データサイエンティストやIT人材に限らず、全社員が対象であり、どれだけ多くの人が課題に気づき、その解決に向けて動けるかが、組織や企業の競争力の源泉になる」(同)と力を込める。
デジタル化によって可視化される気づきについて板野氏は「“多様性”による発想の創発と“集中”による深い洞察の2つのプロセスがある。DXのXで求められている新しいもの・ことを創造するための気づきは、この多様性と集中のバランスから生まれる」と説明する。
だからこそ企業の競争力は「社員1人ひとりのパフォーマンスの総和にある」と板野氏は強調する。個々のパフォーマンスは「スキル(経験)とモチベーション(やる気)、集中(考える)力の掛け算で決まる。その“体積”を最大化することが組織力強化につながる」(同)とする(図3)。
「主役は社員1人ひとりだ。人を主語に考えれば、どんな変化にも、ブレることなく対応できる。ITツールだけに依存せず、優秀な人材とツールの最適なコンビネーションこそが、日本が世界で勝ち抜くための必須条件である」とエールを送る。
企業/組織名 | 三菱マテリアル |
業種 | 製造 |
地域 | 東京都千代田区(本社) |
課題 | 循環型社会の実現に向け、グループ横断での環境経営とデジタル戦略を両立し、事業競争力と持続可能性を高めたい |
解決の仕組み | DX戦略の第2フェーズ「MMDX2.0」により、事業・ものづくり・研究開発の3領域のDXを推進する。そのためのIT支援を横断的に提供し、データ活用と人材の自律的成長をうながす |
推進母体/体制 | 三菱マテリアル |
活用しているデータ | 製造・調達・契約・出荷に関わるデータ全般 |
採用している製品/サービス/技術 | 使用済み電子基板の調達サービス「E-Scrapプラットフォーム」(三菱マテリアル製)、ERPシステム |
稼働時期 | 2022年(DX戦略「MMDX2.0」の開始時期) |