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ワコール、ボディースキャンによる3Dデータを軸にECと店舗の融合を促進
「Digital Commerce Frontier 2025」より、D2C統括部 執行役員 藤村 努 氏
実際、同社の分析では、店舗のみで購買する顧客と比べ、店舗とECとで購買する顧客の購入金額は2.2倍、ECのみだった顧客が店舗も利用するようになると2.5倍に跳ね上がる。加えて3Dボディーデータを持つ顧客の購入金額は、さらに1.2倍高まる(図3)。
そこからワコールは、店舗とECの両方での購買促進をベースに、3Dボディーデータの取得をうながすことで、さらなるLTV(life Time Value)向上を図る戦略を採る。藤村氏は「顧客と深く長く付き合うためには、3Dボディーデータの収集が非常に重要になる」と強調する。
ボディーデータ活用を含めたOMO店舗「WACOAL is」をオープン
「店舗 + EC + 3Dボディーデータ」という顧客戦略を具現化したのが、2025年4月にオープンした「WACOAL is」である。「ここにある、新しいわたし」をブランドコンセプトに、SCANBEとワコールウェブストアのコンテンツを融合させたOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)店舗になっている(図4)。
WACOAL isでは、ECと店舗の優位性を相互に活用している。ECの利便性やアクセシビリティ、多くの情報量と豊富な商品選択肢を活かしながら、店舗では実物の確認や試着、専門コンサルティングを提供する。藤村氏は「どこで情報を得ても、どこで購買しても良い環境を作ることが重要だ」と説明する。
店頭で扱う商品も、従来の単一ブランド展開から脱却し、ブランド横断でワコールウェブストアの全商材を扱っている。ファッション系アウターや女性下着、スポーツウェアといった機能軸で商品を並べ顧客ニーズに対応する。
ECとの連携も強化している。各商品に2次元コードタグを添付し、詳細情報を確認したり、後日に検討するための情報を保存したりを可能にした。店内にはワコールウェブストアのランキングや口コミを表示するモニターも設置する。従来は店頭とECで個別に展開していたキャンペーンもWACOAL isでは「初めて連動させた」(藤村氏)という。
百貨店や直営店でも展開している「取り置き・取り寄せサービス」も併売促進の重要な仕組みの1つである。EC上で在庫確認と取り置きを予約でき、店舗では顧客ニーズに合致する商品の取り寄せを提案する。
そのうえでWACOAL isでは、来店顧客に対しECに誘導する施策を重視している。「店舗だけで購買している顧客でも、ECで情報収集している顧客と、全くECを見ない顧客では、前者の方がLTVは1.4倍ほど高くなる」(藤村氏)という分析結果があるためだ。
女性下着メーカーからデータに基づく商品/サービス提供会社へ
現時点ではWACOAL isは、まだ1店舗の実験段階にあるが、ここで成功したOMO施策は順次水平展開していく方針だ。
藤村氏は「現在、ワコールの印象は、やはり女性下着メーカーだと思う。しかし、SCANBEによる3Dボディーデータと、それ以前から計測してきたボディーデータに基づく商品やサービスを提供することが当社の新しい価値創造になる。女性下着メーカーから、ボディーデータをベースにした商品/サービスを提供できるカンパニーへ進化させていきたい」と力を込める。