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ワコール、ボディースキャンによる3Dデータを軸にECと店舗の融合を促進
「Digital Commerce Frontier 2025」より、D2C統括部 執行役員 藤村 努 氏
ワコールが、従来の女性下着メーカーの枠を超えた顧客戦略に挑戦している。そのための武器になるのが、60年間蓄積してきた人間科学研究の成果とボディーデータである。D2C統括部 執行役員の藤村 努 氏が「Digital Commerce Frontier 2025」(主催:ネットショップ担当者フォーラム、2025年7月30日)に登壇し、ボディーデータを核にした顧客体験の変革やOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)戦略について解説した。
「当社のコアコンピタンスは『人間科学研究とボディーデータ』にある。これまでの女性下着メーカーから、ボディーデータをベースにした商品/サービスを提供できるカンパニーに進化したい」--。ワコール D2C統括部 執行役員の藤村 努 氏は、こう訴える。
60年前からの研究をベースに3Dボディーデータの収集を開始
1946年創業のワコールは、女性下着を中心に事業を拡大してきた。現在は「WACOAL」や「Wing」といった主力ブランドに加え、若年層向けの「AMPHI」、セクシーラインの「Salute」、ライフスタイルを提案する「une nana cool」といったブランドを展開する。さらに男性下着の「WACOAL MEN」やスポーツウェアブランド「CW-X」も手掛けている。
しかし藤村氏は「当社の真の強みは、1964年に設立した人間科学研究所にある。60年以上にわたり女性の身体を研究し続け、4万5000超のボディーデータを蓄積してきた」と力を込める。そのうえで「この研究資産が2019年、3D(3次元)でボディーデータをスキャンする『SCANBE』の導入により大きく変貌を遂げた」という。
SCANBEは、全身の3Dデータをスキャンできる店舗設置のブースおよび、そのサービスの名称だ。計測時間は3秒で、スキャンした顧客はスマートフォン用アプリケーションを使って自身のボディーデータを確認できる(図1)。
SCANBEは現在、全国の百貨店や直営店、約30店舗に設置されている。「2025年5月までの6年間に延べ30万人以上のボディーデータを計測している。研究所が60年間にアナログで計測できたのが4万5000人だったことを考えれば飛躍的な増加だ」と藤村氏は自己評価する。
3Dボディーデータを持つ顧客のLTVは高い
この3Dボディーデータを使ってワコールは現在、3つのサービスを提供している。(1)骨格パターンを診断しアウター選びをサポートする「わたしを知る骨格診断」、(2)スマホ首や反り腰などの姿勢を動物キャラクターで表現し姿勢改善を、リアルタイムにアドバイスする「からだバランス診断」、(3)上半身のボディタイプを解析し最適なブラジャーを推奨する「わたしに合うブラ診断」だ。
からだバランス診断は2025年6月に開始。さらに2025年7月29日には、店舗限定だった、わたしに合うブラ診断を自社EC(電子商取引)サイト「ワコールウェブストア」でも利用できるようにし、ブラジャーの相性度を表示するサービスとしての提供を開始した(図2)。
藤村氏は「3Dボディーデータを保有している会員は、ログインすればデフォルトで商品の相性度が表示される。ボディーデータを持たない顧客もセルフ診断で近い結果を得られるが、実際のデータを保有していた方がより正確なフィッティング推奨ができる」と説明する。
そのため顧客は「ECでの購買時にボディーデータが持つ価値を実感でき、SCANBE利用の動機付けが強化される」(藤村氏)。ボディーデータの収集からサービス提供、購買促進へと続く循環構造が実現できているわけだ。