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バルブのキッツ、変化が少なかった老舗メーカーがDXで業務効率を高められた理由
執行理事 CIO/CISO IT統括センター長の石島 貴司 氏
現場目線のKPIを設定し全社の経営指標とも連動させる
これらの働き方改革により社内の空気も変わり、2022年に本格的な全社DXを始動した。最初に行ったのが役員の理解を得て推進者になってもらうこと。石島氏は「外部から講師を呼び、世の中の状況などをレクチャーしてもらったりした」という。そのうえで「社長がDXオーナーとなり、全社全部門に号令をかけた」(石島氏)
さらに、IT組織とは別にDX専門の推進組織を構築。並行して全部門から選抜した224人からなる仮想のDX組織も作った。そこでは「誰もが変革の効果を感じられ、同じ方向を向いて進めるよう現場目線のKPIを設定した」(石島氏)。同KPIは、キッツ全社のROIC(Return On Invested Capital、投下資本利益率)およびESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)と連動させている(図2)。
それでもまだ「ITに自信がないなどを理由にする従業員も多く、改善・改革を実践している従業員は感覚的には3分の1程度だ」と石島氏は言う。そのため「残り3分の2にもチャレンジしてもらうために、さまざまな啓蒙の仕組みを用意していく」(同)考えだ。
その1つが従業員自身による開発を支援する教育・実践プログラム。RPAやデータ分析、AI(人工知能)技術などに関しては「受講したいと思えば直ぐに受講できる状況になっている」(石島氏)。一方でITが苦手な人向けには「IT使いこなし塾」を用意している。そこでは「67歳の再雇用エンジニアが講師を務めている」(同)。石島氏は「経験豊富な再雇用者のさらなる活躍法にも注目している」という。
社内のDXイベントとして毎年「DX EXPO」も実施している。優れたDX活動の発表、表彰やITベンダーにも協力してもらい、新技術のデモンストレーションなどを実施し、DXの重要性や“やってみる精神”の醸成に努めている。
2025年からの「第2期中期経営計画」が真のDXチャレンジに
本格的にDXに取り組んできた3年間。石島氏は「業務効率も生産性も大幅に向上した」と一定の手応えを挙げる。だが「第2期中期経営計画が始まった2025年からの3年間が本当の意味でのチャレンジになる」と気を引き締める。
第2期中期経営計画に併せキッツグループのグローバルな組織が、2025年1月から市場別に再編成された(図3)。より各市場の顧客に近づき、顧客のニーズや課題を理解し、そのニーズにグループ一丸となって応えていくためだ。「当然IT部門もデジタルの力をフルに活用し、市場ニーズに合わせたシステムを提供し、効率的かつ効果的なビジネスができるようサポートしていく」(石島氏)考えだ。
2025年度には、IT部門内にAI活用を統括・支援する専門組織「AI CoE(Center of Excellence)」を立ち上げた。「全従業員がAI技術を当たり前に活用できるよう啓蒙とサポートしていく」(石島氏)構えである。
石島氏は「デジタル化のスタートはかなり遅れていた企業が、この数年で、これだけ大きく変わることができた。それに満足せず、日本を引っ張れるぐらいの会社に成長させていきたい」と力を込める。
企業/組織名 | キッツ |
業種 | 製造 |
地域 | 東京都港区(本社) |
課題 | 市場の安定を背景に変化を避ける企業文化が定着し、顧客ニーズの理解不足や非効率な業務が常態化していた。IT部門は運用・保守に工数の多くを割き、経営に貢献できていなかった |
解決の仕組み | IT部門の工数を可視化して効率化を徹底し、同じ取り組みを全部門に広げる。全社ポータルで情報共有を進めるとともに、現場目線のKPIを経営に連動するよう設定し、従業員の意識改革を進める |
推進母体/体制 | キッツ |
活用しているデータ | 各部門の工数データ、CRMの営業活動データ、棚卸のための在庫データなど |
採用している製品/サービス/技術 | CRMシステム「Salesforce」(米Salesforce製)、BIツール「Power BI」(米Microsoft製)、コミュニケーションツール「LINE WORKS」(LINE製) |
稼働時期 | 2025年2月(第2期中期経営計画の開始時期) |