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バルブのキッツ、変化が少なかった老舗メーカーがDXで業務効率を高められた理由
執行理事 CIO/CISO IT統括センター長の石島 貴司 氏
バルブメーカーのキッツは、新長期ビジョン・中期経営計画を契機に、DX(デジタルトランスフォーメーション)を全社規模で推進している。執行理事 CIO(最高情報責任者)/CISO(最高情報セキュリティ責任者) IT統括センター長の石島 貴司 氏が「CIO Japan Summit July 2025」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2025年7月)に登壇し、同社がどのようにデジタル化、DX化を進めてきたのかを解説した。
「当社はグループグローバルな基幹システム整備を最優先課題としてきたため、数年前までは全体的なデジタル化やDXが遅れていた。しかし、2021年新社長のもと策定した新たな長期ビジョン・中期経営計画を契機に、かつてないほど大きく会社が変わり始めた」--。バルブメーカーのキッツで執行理事 CIO(最高情報責任者)/CISO(最高情報セキュリティ責任者) IT統括センター長を務める石島 貴司 氏は、同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みの契機を、こう話す(写真1)。
1951年の創業のキッツは、世界有数の総合バルブメーカーだ。気体や液体などを流したり止めたりするバルブは、工場やプラント、上下水道、住宅やビル、自動車や電車、航空機、船舶など、気体や液体が流れるありとあらゆる所に利用されている。その原研は古代エジプト時代にまでさかのぼり、3000年の歴史を持っている。
数あるバルブの中でもキッツが得意としてきたのが、住宅やオフィス、工場などの建築設備向けと石油・一般化学向けのバルブである。現在は、主力分野はそのままに「バルブというコンテンツを生かし、デジタル(半導体、データセンターなど)やグリーン(脱炭素)という成長分野への参入を加速させている」と石島氏は説明する。
加えて新ビジネスとして「当社製浄水装置を使ったハウス栽培、陸上養殖や、水素ステーションの販売や水素発電、水素自動車、水素飛行機など水素関連のプロジェクトにも参画している」(石島氏)という。
2020年以前は「大きな変化がなくても生きていける」という安心感があった
そのキッツに石島氏がCIOとして入社したのは2018年のこと。当時はキッツ本体の基幹システムが再構築の真っ最中で、全社全部門が、その立ち上げに集中していた。結果「それ以外のIT化やDXなどがかなり遅れていた」と石島氏は振り返る。「バルブは社会的なインフラであり『ニーズはなくならない』という安心感が、それを助長していたこともあるかもしれない」(同)とする。
実際、同社製品の国内市場占有率は高かった。大量生産した製品を販売代理店経由で販売するビジネスモデルで売り上げは比較的安定していた。代理店を経由した販売が中心だったため「その先の実際の顧客が何を考え、何に困っているか深くつかむのが困難だった」と石島氏は話す。
これらの理由から会社全体に「大きな変化は必要ない。今までの仕事のやり方を継続していれば問題ないという雰囲気を感じた」と石島氏は明かす。
勤務時間(工数)の使い方も問題の1つだった。「従業員のほとんどの工数が決まったオペレーションでいっぱいで、改革や改善、新たなチャレンジに工数を割く余裕がなかった」(石島氏)という。
それでも石島氏は「(変革に取り組む)勝ち目はあると思った」と力を込める。「会長と社長をはじめ経営層が皆、問題意識を持っていたことと、従業員は真面目で協力し合う風土もあった」(同)からだ。また当時、従業員の半分以上が中途入社で、うち3割以上が2010年以降に入社していた。「社外との比較や違う視点を持っている人が社内に多数存在しており、長い経験と実績を持つ従業員と活発に議論できれば正しい変革が絶対にできる」と石島氏はよんだのだ。
加えて、基幹業務システムには、独SAP製のERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムがフィット・トゥ・スタンダード(Fit to Standard)に近い状態で導入されていた。「データ活用のスタートラインは遅れていたが、その遅れは取り戻せると思った」と石島氏はいう。