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スギ薬局、「アナログ思考」がDXを成功に導くー分断を超える組織づくりとは

「Manufacturing CIO Japan Summit 2025」より、DX戦略本部長 CDO 各務 茂雄 氏

野々下 裕子(NOISIA:テックジャーナリスト)
2025年10月16日

自社の強みを生かしつつDX(デジタルトランスフォーメーション)に、どう取り組むかは多くの企業に共通のテーマである。スギ薬局でDX戦略本部長 CDO(最高デジタル責任者)を務める各務 茂雄 氏が「Manufacturing CIO Japan Summit 2025」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2025年9月11日)に登壇し、同社におけるDXの位置付けと、その推進方法を説明した。

 「自社の“アナログ”を正しく理解した上で、それらを支える手段としてDX(デジタルトランスフォーメーション)を位置付けるべきだ」--。スギ薬局 DX戦略本部長 CDO(最高デジタル責任者)を務める各務 茂雄 氏は、DXの進め方について、こう提言する(写真1)。

写真1:スギ薬局 DX戦略本部長 CDO(最高デジタル責任者)の各務 茂雄 氏

 2026年に創業50周年を迎えるスギ薬局は、グループ各社の事業ノウハウやリソースの融合により事業成長を加速させることで「地域のヘルスケアのインフラになる」ことを目指している(図1)。約4800人が在籍する薬剤師のほか、管理栄養士やビューティアドバイザーなど多様な専門家人材を抱え、2024年度は130店舗を新規に出店し、総店舗数は2025年2月末時点で2185店に達している。

図1:スギ薬局が目指す「地域のヘルスケアのインフラ」のイメージ

 自社アプリケーション「スギ薬局アプリ」を提供しており、そのダウンロード数は1400万を超えるという。店頭での対面提案にもオンラインによるカウンセリングサービスを提供する。

3カ月で100店舗を周回しスギ薬局の“良いアナログ”を見いだす

 スギ薬局のDX戦略本部は2020年に設置され、現在は社員とパートナーを含め約670人が所属する。各務氏自身はMicrosoftやAWS(Amazon Web Services)などを経て、三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部やJTB 執行役員CDXO(Chief DX Officer)として各社のDXを推進してきた。

 そうした経験から各務氏は「多くの企業はAI(人工知能)技術を活用する時代を迎えていると思いながらも、さまざまな要因から思い切った意思決定ができない“ヤバイ”状況にある」と警鐘を鳴らす。

 ヤバイ状況の解決には「DXが不可欠であり、アナログとデジタルの融合が求められる」と各務氏は強調する。「人は基本的にアナログでありデジタルは苦手なため、自社にとって“良いアナログ”とは何かを考え、それを生かし強みにすることが大事だ」(同)と訴える。

 スギ薬局にとっての“良いアナログ”を見いだすために各務氏は、3カ月で100店舗を周回するなど「現場を知る活動を続けている」という。そこから見えてきた“良いアナログ”として「トータルヘルスケアへの熱い想い、店舗での接客やおもてなし、経験による知見、そしてチームを含めた良い人間関係づくりなどを挙げる。

 そのうえで各務氏は「アナログとデジタルで、それぞれの価値を創造する人材と、その間をつないで支援する人材が全体の付加価値創造のポイントになる」と強調する。「経営陣から現場までが一気通貫でコラボレーションできるビジネスモデルを目指す必要がある」(同)からだ。

 一気通貫のコラボに向けて力を入れるのが、スギ薬局アプリの活用である。同アプリを通じて「顧客データと従業員のナレッジを結ばれ、今後の出店計画や仕入れ・発注、店舗支援など、いろいろなことが可能になる」(各務氏)という(図2)。

図2:スギ薬局は「スギ薬局アプリ」の会員データや店頭のナレッジの集積を進める

 少子高齢化が進む中では、来店客との対面コミュニケーションが強みになるとして、その要となる薬剤師への支援策として薬剤師限定の会員制コミュニティ「ヤクメド」を運営している。社内全体のコラボレーションの強化策としては「日々使うツールをより連携しやすくし、AI技術を使ってデータを生かすことに取り組んでいる」(各務氏)