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TOTO、デザイン経営を推し進めVRを活用したデザインフローを確立

「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2025」より、デザイン本部 デジタルデザイングループの島添 孝則氏と福地 俊一氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年10月17日

 そこでデザイン本部が着手したのが開発ツールの見直しだ。その理由をデザイン本部 デジタルデザイングループ デジタルモデラーの福地 俊一 氏は「当時使用していた3D CADソフトウェアでは、意図せず製品の表面(サーフェス)が折れたり離れたり、履歴の変更でモデル全体が崩壊してしまったり、単純な面を1枚張るのに時間がかかったりと、データ精度や安定性、計算時間に根深い問題があったためだ」と説明する(写真2)。

写真2:TOTO デザイン本部 デジタルデザイングループ デジタルモデラーの福地 俊一氏

 そこで目を付けたのが、共に自動車業界出身の島添氏と福地氏が前職で扱っていた3D CADソフトウェア「CATIA」(仏ダッソー・システムズ製)である。既存CADと比較した結果として「特に現行バージョンのクラウド基盤『3DEXPERIENCEプラットフォーム』のデザインの表現力を高く評価した」(福地氏)という。

VR空間でデザイン評価でモデラーの作業時間を8割削減

 CADの刷新と並行して福地氏は、VR(Virtual Reality:仮想現実)やCGなど周辺技術の研究・強化を進めた。その過程で、CATIAの3Dデータにデザインツールの「Substance 3D」(米Adobe製)で作成したCMF(Color:色、Material:素材、Finish:仕上げ)情報を付与し、VRデバイスを使って仮想空間で評価するフローを導入した。

 これにより「CATIAでモデリングしたデータをVR空間に転送すれば、形状や空間との関係性を実物大で確認できるようになった。そこで得たフィードバックを基にモデルを修正するというサイクルを確立でき、このサイクルを開発期間中に何度も繰り返している」(福地氏)という(図2)。

図2:VR技術を使ったデザインフローのサイクル

 例えば、シャワーヘッドの新製品開発では「全体のサイズ感や、壁からの距離による圧迫感、操作ダイヤルとの位置関係、利用者から見た散水板の意匠などを実物がそこにあるかのように多角的に検討できた」(福地氏)。3D CADデータをデザイナーも直接見られるよう「評価や簡易編集に特化したCATIAのライセンスを付与し部門全体の開発スピードを高めている」(同)

 これらの取り組みにより「デザイン評価におけるデジタルモデラーの作業時間は従来比で約8割削減できている」と福地氏は話す。特に効果を挙げているのが「物理的な試作品(モックアップ)の削減だ。従来、シャワーヘッド程度の大きさの製品開発ではデザイン決定までに5〜7個の試作品を作っていた。今回のシャワーヘッドでは最終評価用の1個しか作っていない」(同)という。

 ただTOTOが最も重視する「ユニバーサルデザイン」の観点からは「物理的な検証が不要になったわけではない」と福地氏は話す。例えば、シャワーヘッドのグリップの握り心地や水圧など人の感覚に深く関わる部分は「クレイモデラーが作成したモデルや試作品で入念に検証を重ねるなど、デジタルで効率化できる部分とアナログで突き詰めるべき部分を明確に切り分けている」(同)

効率化で生まれた時間をデザインの質に再投資

 デザイン業務の効率化によって生まれた時間は「製品価値を高めるための作り込みに再投資されている」と福地氏は話す。「質感や色味を決定するCMF検討にリソースを割けるようになり、結果的にデザインの質そのものが向上した」(同)とする。併せて「試作品の製作や輸送にかかるコストと環境負荷も削減でき、当社が目指すサステナビリティ活動への貢献にもつながっている」(同)とする。

 デザイン評価の今後について福地氏は「複数人が同じ空間に入れるマルチサイトVRを導入し、同じモデルを共同で確認したり、海外拠点と連携したりを可能にしたいと考えている。進化していくモデリング機能やAI(人工知能)技術なども積極的に利用し、顧客が求めるデザインを生み出していきたい」と力を込める。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名TOTO
業種製造
地域北九州市(本社)
課題陶器製品特有の寸法変化や、海外拠点との物理モデルのやり取りに時間がかかるなど、デザイン開発の精度とスピードの両立が難しい
解決の仕組みデザイン部門内に専門職による分業体制を整備し、3Dデータを中心とした開発プロセスを確立する。VRを使った仮想空間上でのデザイン検証を導入し、実寸での形状・空間評価を短期間で反復できる仕組みを構築。製品開発の精度向上と試作・輸送コストの削減を図る
推進母体/体制TOTO、仏ダッソー・システムズ日本法人
活用しているデータ設計の3D CADデータ、素材・色・仕上げなどのマテリアル情報、仮想空間での評価データ
採用している製品/サービス/技術3D CADソフトウェア「CATIA」(仏ダッソー・システムズ製)、3Dデザインソフトウェア「Substance 3D」(米Adobe製)、VRデバイス
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