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航空機内装のジャムコ、設計から営業、保守までを3Dデータで連携

「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2025」より、技術イノベーションセンター 第二キャンパスグループの難波 孝晃 氏

山田 光利
2025年10月20日

航空機の内装を手掛けるジャムコが3D(3次元)データの活用を加速している。技術イノベーションセンター 第二キャンパスグループの難波 孝晃 氏が「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2025」(主催:仏ダッソー・システムズ日本法人、2025年9月9日〜10日)に登壇し、仕様検討や製品提案でのVR(Virtual Reality:仮想現実)デバイスの利用について説明した。

 「当社は約20年前から設計・開発に3D CAD(3次元でのコンピューターによる設計)ソフトウェアを使ってきた。3Dデータは情報資産として蓄積してきたが、設計以外ではうまく活用できていなかったが、VR(Virtual Reality:仮想現実)技術の利用でキャビン空間を実物大で投影し、仮想体験が可能になった」--。ジャムコ 技術イノベーションセンター 第二キャンパスグループの難波 孝晃 氏は、3Dデータの活用について、こう話す(写真1)。

写真1:ジャムコ 技術イノベーションセンター 第二キャンパスグループの難波 孝晃 氏

 ジャムコは、航空機内のラバトリー(化粧室ユニット)やギャレー(厨房設備)、シートなど内装材のメーカーである。難波氏が所属する技術イノベーションセンターは全社の研究開発部門を俯瞰し統括するのが役割だ。第二キャンパスグループでは、ラバトリーやギャレーの設計を手掛けていたエンジニアが中心になり、技術力の強化や設計・製造の効率化に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。

3Dデータの有効活用を前提に対象範囲を3つに絞り込み

 DXに向けて難波氏らは「社内全体の製品サイクルを俯瞰し全体像を捉えたうえで、社内に蓄積された3Dデータを有効活用すれば、どのような改善が図れるかを整理した」という。結果、3Dデータの活用場面として取り組むべき対象を(1)販売促進、(2)工程短縮、(3)コスト削減の3つに絞り込んだ(図1)。

図1:ジャムコは3D(3次元)データの活用対象を(1)販売促進、(2)工程短縮、(3)コスト削減の3つに絞り込んだ

 グループメンバーは元来、エンジニアである。「3Dデータの価値を技術的に理解しており、製造や営業、マーケティングでもうまく活用できると考えた」と難波氏は振り返る。

 最初に着目したのは「顧客との製品仕様のすり合わせ」(難波氏)だ。航空機内の設備はオーダーメイドが中心で、航空会社からの受注後に製品仕様の詳細を検討するケースが多い。「受注から製品の完成まで2年近くかかることもある」(同)という。

 仕様の詳細は従来、実物大のモックアップを作って説明し確認してきた。これに対し難波氏らは「3Dデータを基に構築したデジタルツインを用いれば、仕様の早期検討や顧客とのコミュニケーションの品質向上が見込める」と考え、本社(東京都立川市)にバーチャル・イノベーション・スタジオ」を設置した(図2)。デジタルツイン構築サービス「Commercial Virtual Twin as a Service(VTaaS)」(仏ダッソー・システムズ製)を使って開発したものだ。

図2:ジャムコの「バーチャル・イノベーション・スタジオ」のイメージ

 バーチャル・イノベーション・スタジオでは、3Dデータから作成した実物大のキャビンを壁や床に投影すると同時に、VR(Virtual Reality:仮想現実)デバイスを用いて設備を仮想空間で体験できる。そこでは「社内のエンジニアとデザイナー、そして顧客が、本物の航空機内にいるかのような体感の下、製品仕様や設置イメージをすり合わせている」(難波氏)

 同スタジオは、仕様検討以外にも利用されている。例えば営業・提案段階では「機内に設備を取り付けた状態を表現し提案している」(難波氏)。従来はモニターや資料に写した2次元のイメージ図を使った提案が主だった。メンテナンス段階では「対象製品を立体的に表示し、交換が必要な部品を、より視覚的に特定できるようになった」(同)という。