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出光興産、統合型AIエージェントを見据え土台となるデータ連携基盤を整備
「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo 2025」より、生産技術センターの秋山 成樹 氏
データ基盤により迅速な状況把握と原因分析が可能に
CDFに集約するデータは多岐にわたる。プラントの配管計装図(P&ID:Piping & Instrumentation Diagram)や運転データ、設備保全管理システム(CMMS:Computerized Maintenance Management System)のデータのほか、点検報告書や技術文書といった非構造化データまでである。これらを機器に関連付けることで「現場の担当者は機器の名称や識別番号を入力すれば、関連図面や点検履歴など関連する全ての情報を検索・共有できる」(秋山氏)という。
CDFを活用した事例として秋山氏は、運転監視と緊急トラブル時の情報共有を挙げる。運転監視では、従来は別々のシステムから得ていた運転データとP&IDを、CDFのダッシュボードに統合した(図2)。「運転状況を直感的に得られるよう可視化し、しきい値を超えればアラートを出すという運用が可能になった」(秋山氏)
緊急トラブル時の情報共有では、P&IDや運転データに加えて、過去の工事報告書や検査報告書などの関連情報をCDFから取得できるようにした。「迅速な状況把握と原因分析が可能になり、初動対応の迅速化に貢献している」(秋山氏)。
CDF導入による最大の効果について秋山氏は「手作業から解放され、本来の目的であるデータの活用・分析に時間を割けられるようになった」ことを強調する。
このCDFを基盤にした“自分たちで気づける仕組み”の構築に向けては「AIエージェントが作業内容を自ら判断し、必要な情報を提示する『統括AI』の実現を目標に掲げている」と秋山氏は話す(図3)。
ハッカソンで現場の担当者自らのアイデア創出を狙う
統括AIの実現に向けて出光興産はCogniteと共同でハッカソンを実施した。単にAIエージェントを開発するのではなく「AIエージェントの性能とデータ整備とが関連していることを現場の担当者に実感してもらい、自らがAIエージェントのロジックを理解し活用のアイデアを生み出せるようにするのが狙いだった」と秋山氏は説明する。
ハッカソンでは「検索特化エージェント」と「迅速対応エージェント」の2つを試作した。検索特化エージェントでは、運転マニュアルや過去のトラブル事例から、作業に必要な情報を抽出し要約できるようにした。「過去のトラブルの半数近くがマニュアルの見落としに起因していた」(秋山氏)ためだ。
検索特化エージェントは、検索結果をカテゴリー別に分類し関連性の高い情報を一覧表示する。長文の文書から重要な箇所を抽出・要約できるため「現場の担当者は必要な情報に素早くアクセスできるようになった」(秋山氏)という。
一方の迅速対応エージェントは、緊急トラブルが発生した際に、機器の名称や不具合内容を入力すれば、関連するP&IDや運転データ、過去の不具合事例などを一括で抽出し、構造化されたイメージ図にして表示する。「初動対応の迅速化に加え、トラブルシューティングの効率も高まる」と秋山氏は期待する。
ただ、これらのAIエージェントについて秋山氏は「正直に言えば、試作段階のチャンピオンデータだ」と評する。今後は「現場からのフィードバックを反映しブラッシュアップしていく」(同)とする。
と言いながらも試作を通じては「Atlas AIが持つ潜在能力を肌で感じられた。“自分たちで気づける仕組み”を現場の担当者と共同で作り上げられるという確信を得た」と秋山氏は話す。そのうえで「AI技術の活用には、データがしっかりと連携され整理された状態でなければならない」と改めて強調する。
AIエージェントのためのデータ整備は“永遠に続く”
出光興産は今後も、データ整備を継続しながら、運転データの自動解析や保全データの評価など、より高度なAIエージェントの開発を進めていく計画だ。そこでの重要ポイントとして秋山氏は次の3つを挙げる。
ポイント1=AI精度の向上 :AIエージェントが真に現場で活用されるためには、そのロジックを現場の担当者が理解し、自ら改善できる体制が不可欠になる。最新のアルゴリズムを適用しつつ、ロジックを理解し使いこなすチームを育成していく
ポイント2=適用範囲の拡大 :プラントの操業や保全部門での活用を推進するとともに、物流や販売など他の事業領域にもAIエージェントを適用していく
ポイント3=維持管理体制の構築 :優れたAIエージェントを開発しても、その土台になるデータが古かったり整理されていなかったりすれば、期待通りの成果は得られない。データ整備は“永遠に続く作業”として、常に最新なデータがCDFに集約できるように維持管理を構築していく
秋山氏は「AIエージェントはあくまでツールである。それを使いこなすためには、まずデータをしっかりと整備し、連携させることが重要だ」と改めて指摘する。

