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出光興産、統合型AIエージェントを見据え土台となるデータ連携基盤を整備

「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo 2025」より、生産技術センターの秋山 成樹 氏

阿部 欽一
2025年12月2日

出光興産が現場の専門知識を提供してくれるAI(人工知能)エージェントの活用に取り組み始めている。同社 生産技術センター システム高度化技術室 先進システム開発グループリーダーの秋山 成樹 氏が「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo 2025」(主催:ノルウェーCogniteの日本法人、2025年9月10日)に登壇し、AIエージェントの将来像と、その土台となるデータ連携の重要性について説明した。

 「より効率的で安全な次世代のオペレーションを実現するためには、現場の専門知識を掛け合わせたAI(人工知能)技術の活用が不可欠であり、そのためにはデータ連携が、しっかりと整備されていなければならない」--。出光興産 生産技術センター システム高度化技術室 先進システム開発グループリーダーの秋山 成樹 氏は、こう指摘する(写真1)。

写真1:出光興産 生産技術センター システム高度化技術室 先進システム開発グループリーダーの秋山 成樹 氏

DX推進の中心はデータ基盤による可視化

 1940年創業の出光興産は、石油などの精製事業を中核に、合成樹脂などの原料になるエチレンや、電子材料などの高機能材、資源開発、産業エネルギーなどの事業を展開している。日本国内には8つの事業所と製油所を持つ。秋山氏が所属する生産技術センターには244人のスタッフが在籍している。

 同社は中期経営計画において、2030年のビジョンとして「責任ある変革者」を掲げ、事業ポートフォリオの変革に取り組んでいる。そこでのDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略は「デジタルを活用した生産性向上と新たな価値創出に位置付け、事業全体の共通基盤として生産性の30%向上を目標にする」(同)

 DX推進の中心にあるのが「データ基盤による可視化」(秋山氏)である。特に石油精製や化学プラントを運用する製造技術部門においては「現場のデータの可視化とデータ基盤の構築が喫緊の課題になっていた」(同)。なぜならDX推進に本格的に着手した2023年ごろは「データが各システムに分散し、同じ機器を表すのに違う記号が使われていた」(同)からだ。

 そのため、必要なデータを取得しようとすれば「各システムの担当者に連絡し、手作業でデータを加工・統合しなければならなかった。データの収集だけでも多くの時間がかかり、本来業務である分析や改善活動に十分な時間を割けなかった」と秋山氏は振り返る。

 そうした課題解決に向けて出光興産は、産業用データ基盤「Cognite Data Fusion(CDF)」(ノルウェーのCognite製)を導入した。「プラント内の全データを1つのデータハブに統合する」(秋山氏)のが目的だ。

 2024年には、北海道、千葉、愛知、徳山の4事業所に導入し、従来は手作業だったデータ収集を自動化する仕組みを構築した。これまでに「1年間に約6万時間の業務効率化に貢献している」(同)という。

 CDFを基盤にした次の段階として、AIエージェントの「Cognite Atlas AI」(Cognite製)を組み合わせた意思決定の高度化・迅速化に取り組んでいる。これを同社では「自分たちで気付ける仕組み」と呼ぶ(図1)。その実現に向け「2040年までのロードマップを描き、長期的な取り組みを進めている」と秋山氏は説明する。

図1:「自分たちで気づける仕組み」に向けた2040年までのロードマップ