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ノルウェーのエネルギー大手Aker BP、低炭素時代の競争優位性獲得にプラントへのAIエージェント実装を拡大
「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo 2025」より、CDOのポーラ・ドイル氏
エネルギー大手のノルウェーAker BP(アケル・ビーピー)は、低炭素の要請が強まるエネルギー業界における競争優位性を獲得するために、AI(人工知能)エージェントの実装を強化している。同社 CDO(最高デジタル責任者)のポーラ・ドイル(Paula Doyle)氏が「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo 2025」(主催:Cognite日本法人、2025年9月10日)に登壇し、2027年の稼働を予定する大規模プラントにおけるAIエージェントの実装などについて説明した。
「石油・ガス業界のリーダーであり続けるためには、あらゆるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)において競合他社に優る必要がある。より良く、より安く、より低炭素であるために生成AI(人工知能)のような技術の最前線にいなければならない」--。ノルウェーの石油・ガス大手 Aker BP(アケル・ビーピー)でCDO(最高デジタル責任者)を務めるポーラ・ドイル(Paula Doyle)氏は、こう指摘する(写真1)。
Aker BPは、欧州の独立系では最大規模を誇るエネルギー企業。ノルウェー大陸棚で日産45万バレル(石油80%、ガス20%)を生産する。
同社が現在、最も注力しているのが、2022年12月に承認された140億ドルのプロジェクト「Yggdrasil(ユグドラシル)」である。「ノルウェー沖合での石油・ガス開発の新たなスタンダードを確立するもので、複数の施設と貯留層を海上と地上に設ける複雑なプラントになる。2027年の稼働後は、2029年までに部分的な無人化を実現し、海洋資産の建設・運用方法を根本から変革する」とドイル氏は意気込みを隠さない。
過去にない可能性を持つ生成AIの導入を先送りにはしない
低コストと低炭素の分野での優位性を維持することが重要な経営課題になる中、同社はプロジェクトYggdrasilの実現手段として、ノルウェーのCogniteが提供する産業用データ基盤「Cognite Data Fusion(CDF)」上で動作するAIエージェント「Cognite Atlas AI」を重要戦略の柱に位置付けている(図1)。
近年の生成AI技術の急速な普及と産業界への影響についてドイル氏は「『ブラックスワン(黒い白鳥)』ではなく『グレーライノ(灰色のサイ)』だと捉えている」と例える。
ブラックスワンとは「白鳥は白い」といった常識を覆す黒い白鳥に由来するもので「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など予測困難で巨大な影響を持つ突発的事象」(ドイル氏)を指している。
一方のグレーライノは、アフリカに生息する灰色のサイに由来し「遠くからでも見え『脅威だ』と分かっているのに対策を先送りしがちな問題」(ドイル氏)を指している。ブラックスワンとグレーライノの違いは「事前の準備・対応により影響をコントロールできるかどうか」(同)である。
ドイル氏は生成AI技術をグレーライノに分類する。「産業界は座して待つのではなく、積極的な導入で競争優位を獲得すべき」(同)と考えるからだ。さらに「生成AI技術は過去のどの技術よりも急速に普及しており、これほど生産性向上へのポテンシャルを持つ技術は過去に例がない」(同)ともいう。
そのためAker BPは「2025年を『AIスケール元年』に定め、競争優位獲得に向けたCogniteとの連携を強化する方針だ」とドイル氏は話す。
産業分野でのAIエージェントの利用には信頼性が不可欠
ただドイル氏は「産業分野での生成AI技術の導入には特有の課題がある。『ChatGPT』(米OpenAI製)などで夕食のレストランを選ぶのと、産業ワークフローに導入し判断を仰ぐのでは、求められる次元が全く違う」と指摘する。
なぜなら「複雑かつ品質が異なるマルチモーダルのデータを扱う点や、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)の信頼性がエンジニアリングでは命取りになる。特に産業領域では1台のポンプでの成功事例を100台のポンプに適用できるだけのスケーラビリティ(拡張性)も重要な課題になる」(ドイル氏)からだ。
特に「質の悪いデータの上にAIモデルを置けば、質の悪い出力とハルシネーション(幻覚)が生じる。幻覚を起こすLLMがプラントを自律運転することは許されない」とドイル氏は断言する。また「生成AI技術をシステムに組み込むには、大規模なチーム編成と第三者のサービス事業者への依存が必要になりがちで、コストと時間の増大も懸念材料だ」(同)と指摘する。

