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ノルウェーのNorconsult、鉄道建設での液状化をIoTとBIMで監視

「Autodesk Rail Summit 2025」より、DX部門マネージャー トーマス・フローイェン・アンゲルトヴェイト氏とBIMコーディネーター エギル・ヘーゲランド氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年12月10日

多様なツールを許容する共通データ環境を構築

 モス駅の建設プロジェクトでは、関与する請負業者や専門分野が多岐にわたる。各者の合意形成においてもBIMデータを利用する。ただ使用している設計ソフトウェアなどは、各社が独自のツールを持ち込むため多様になっている。

 そうした状況についてBIMコーディネーターのエギル・ヘーゲランド(Egil Hægeland)氏は「特定のソフトウェアを強制しない『ツール不可知論(Tool Agnostic)』の立場を採った」と強調する(図2)。「重要なのは成果物だ。肝心なのは情報であり、そのモデルを『どう使い、どこに配置するか』が問われている」(同)とする。

図2:「ツール不可知論」に基づき、関係各者は、それぞれのツールを使いながらBIMデータを共有できるようにしている

 ただし、多様な形式のデータが混在する環境であっても「信頼できる唯一の情報源を維持するために共通データ環境を構築し、そこにデータを集約するための独自のパイプラインを開発した」とへーゲランド氏は説明する。共通データ環境には、米Autodeskが提供する建設業向けクラウド「Autodesk Construction Cloud(ACC)」を利用する。

 共通データ環境では、参加各社がBIMデータをクラウドにアップロードすると、夜間バッチ処理により、BIMデータを自動的に収集・統合する。翌朝には最新の状況を反映した統合モデルが生成され全関係者に再配信される。「プロジェクトメンバーが常に最新の全体像に基づいて意思決定できる」(へーゲランド氏)という。

 集約したBIMデータは、シミュレーションやダッシュボード監視に利用し、得られた結果から前工程に戻って修正する。へーゲランド氏は「ここでも適応型のアプローチを採っている。フィードバックループを回しながらモデル品質の成熟度(MMI:Model Maturity Integration)を高めていく運用だ」と説明する。

 API(Application Programming Interface)を使った独自ツールも内製開発している。例えば、架線設計のための「Raycraft」では「自動化により従来比50倍の高速化を実現した」(へーゲランド氏)。施工シミュレーションソフトウェア「Navisworks」(米Autodesk製)の機能を拡張して単一の3D(3次元)空間で属性情報を確認・修正・検証してもいる。

好奇心の強いエンジニアをプロジェクト現場に配置

 アンゲルトヴェイト氏は現場でのツール活用について「どれほど高度なツールや自動化システムを導入しても、それを使うのは現場の人間だ。新しい技術やワークフローに対する抵抗感は、どこの国、どこの組織でも変わらない」と断言する。

 そのため「(IT部門主導のトップダウンではなく)プロジェクト内部からのボトムアップで新しい手法を取り入れるべきだ」とアンゲルトヴェイト氏は強調する。新しい手法に難色を示す担当者がいれば「今後6週間、毎週あなたの部署を訪ね、隣に座って業務を手伝うなどし説得もする」(同)という。

 ノルコンサルでは、ツールを開発するプログラマーは、IT部門ではなく、プロジェクトチームの一員として配置している。「開発者が現場と同じ空気を吸い『何が課題か』を理解すれば、チャットツール越しの依頼では生まれない“真に実用的”なツールを開発する」(アンゲルトヴェイト氏)ためだ。

 チームに加えるプログラマーの採用基準としてアンゲルトヴェイト氏は「最も重視するのは好奇心(Curiosity)だ」と話す。「生活以外に本当に好奇心旺盛なエンジニアは意外と少ない。求められるのは、全体像を見据え『なぜこれをやるのか?』『別の方法はないか?』と疑問を投げかけられる人材だ」(同)と訴える。

 LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)や生成AI(人工知能)技術のプロジェクトへの適用も進める。ただ「現実的なアプローチを採っており、現在成果を上げているのは画像解析やパターン認識の領域だ」とアンゲルトヴェイト氏は説明する。

 例えば、鉄道メンテナンスのために、過去20年間に撮影してきた線路の写真データをAI画像解析し「レールの劣化や異常の検知のほか『Googleマップ』には映らない障害物を検知するプロジェクトを始動した」(アンゲルトヴェイト氏)

 これまで写真データは十分に活用していなかった。アンゲルトヴェイト氏は「データはあるのに活用方法が分からなかったとも言える。しかし今は、好奇心を持って『このデータをどう使えるか?』と考えれば解決策が見えてくる」と力を込める。

 そのため厳格なセキュリティポリシーがイノベーションの阻害要因にならないよう「安全に隔離された検証環境になる“サンドボックス”を構築し、機密性を保ちながらエンジニアがデータを自由に解析できる仕組み作りを急いでいる」(アンゲルトヴェイト氏)という。

 アンゲルトヴェイト氏は「我々はAI技術に取って代わられるのではなく“より優れたエンジニア”として、あらゆることをより良く、より速く遂行できるようになる」と大きく期待する。