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ノルウェーのNorconsult、鉄道建設での液状化をIoTとBIMで監視
「Autodesk Rail Summit 2025」より、DX部門マネージャー トーマス・フローイェン・アンゲルトヴェイト氏とBIMコーディネーター エギル・ヘーゲランド氏
ノルウェーのエンジニアリング大手Norconsult(ノルコンサル)は首都オスロから南下する鉄道建設プロジェクトにおいて、建設予定地の液状化に直面している。地盤の安定化に向けてIoT(Internet of Things:モノのインターネット)とBIM(Building Information Modeling:建物情報モデリング)による監視を続けている。同社のDX部門マネージャーのトーマス・フローイェン・アンゲルトヴェイト(Thomas Fløien Angeltveit)氏とBIMコーディネーターのエギル・ヘーゲランド(Egil Hægeland)氏に、米Autodeskが開いた鉄道・インフラ事業者向けイベント「Autodesk Rail Summit 2025」(スペイン・マドリード、2025年11月4〜5日)で、同プロジェクトの要点を聞いた。
「鉄道建設プロジェクトは単なる建設事業ではない。当社が取り組んでいる新駅の建設事業は、都市全体が地盤から浮き上がり崩壊するのを防ぐための事業に変貌している」--。ノルウェーのエンジニアリング大手Norconsult(ノルコンサル)でDX(デジタルトランスフォーメーション)部門のマネージャーを務めるトーマス・フローイェン・アンゲルトヴェイト(Thomas Fløien Angeltveit)氏は、鉄道建設プロジェクトで直面している状況を、こう話す(写真1)。
ノルコンサルは北欧を中心に、7000人の従業員と140のオフィスを擁する大手エンジニアリング企業である。2030年に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略のロードマップでは、2025年から2027年を「足場固めのフェーズ(Horizon1)」(アンゲルトヴェイト氏)に位置付け基盤作りに取り組んでいる(図1)。
主にはBIM(Building Information Modeling:建物情報モデリング)/GIS(Geographic Information System:地理情報システム)と自動化、マスターデータ管理と共通データ環境(CDE:Common Data Environment)、セキュリティとITなどである。
建設予定地の地盤が軟弱でプロジェクトが市民の安全第一に一変
同社が今、総力を挙げて取り組むのがノルウェーの首都オスロ(Oslo)から南に約60キロメートルの位置にあるモス(Moss)駅の建設だ。ノルウェー国鉄のインフラを管理する政府機関Bane NOR(バーネ・ノール)が進める両駅間の複線化計画の一環で、両都市間の移動時間を約30分にまで短縮する計画である。
しかし、詳細な地質調査の結果「プロジェクトは根本から見直しを迫られた」(アンゲルトヴェイト氏)。建設予定地を含むモス市全体が「『クイッククレイ(Quick Clay)』と呼ばれる粘土質の土壌を持ち、極めて不安定な地盤の上に位置している事実が判明した」(同)ためだ。
クイッククレイは、氷河の減退に伴って表出した、主に北欧やカナダなどで見られる海成粘土である。静止状態では固体としての強度を保つが、過度な圧力や振動が加わると構造が壊れ瞬時に液状化する。アンゲルトヴェイト氏は「ひとたび崩壊すれば大規模な地滑りを引き起こし、都市基盤そのものを飲み込む恐れがある」と説明する。
クイッククレイの発見後は「コストやスケジュールといった従来のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は後退し、安全(Safety)が最優先事項になった。モス駅を作る前に“街を救う”ことが義務になった」(アンゲルトヴェイト氏)という。
地中の状況を可視化するためにノルコンサルは、建設現場を含めた都市各域に多数のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)センサーを設置した。地盤の変位や間隙水圧、振動などのデータをリアルタイムで収集し、監視システムへ送信する。
建設現場では、少なくとも2人の地盤技術者が24時間体制でモニターを監視し、しきい値を超えるとアラートが鳴り、現場へは直ちに作業停止と退避を指示する。
この体制をアンゲルトヴェイト氏は「適応性の高い施工プロセス」と表現する。「建設作業中に『何かが動き始めた』と確認した瞬間に作業を停めて再考する。全てを3D(3次元)モデル上でシミュレーションしながら、日々変化するデータに適応し、地盤安定化の手法を変えていく」(同)
実際の施工では、地盤が浮き上がるのを防ぐために「大量のカウンターウエイト(重石)を埋め込み、パズルのように土壌を入れ替えていく」(アンゲルトヴェイト氏)。この工程を監視するためにBIMデータとIoTデータを連携させた。「どのエリアで重機が稼働し、どこが立ち入り禁止区域かといった依存関係をデジタル空間で厳密に制御するのが狙い」(同)である。

