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日立製作所、グループの全28万人が生成AIを利用し知見を蓄積し顧客に提供

「Manufacturing CIO Japan Summit 2025」より、AI CoE HMAX & AI推進センター本部長の吉田 順 氏

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2026年3月12日

グローバルでビジネス展開する日立製作所では数年前から、全事業を対象に生成AI(人工知能)の活用を推進している。同社のAI CoE HMAX & AI推進センター本部長でデジタルシステム&サービスセクターCAXO(Chief AI Transformation Officer)でもある吉田 順 氏が「Manufacturing Japan Summit 2026」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2026年2月4日)に登壇し、全社員での生成AI活用に向けた取り組みを説明した。

 「日立グループではAI(人工知能))エージェントの取り組みを2段階で進めている。第1段階は社内で徹底的に活用し、社内改革や実践を通じてナレッジやノウハウを蓄積すること。第2段階は、そこでうまくいった仕組みで、お客様の課題を一緒になって解消することだ」--。日立製作所のAI CoE HMAX & AI推進センター本部長でデジタルシステム&サービスセクター CAXO(Chief AI Transformation Officer)でもある吉田 順 氏は、こう説明する(写真1)。

写真1:日立製作所 AI CoE HMAX & AI推進センター本部長兼デジタルシステム&サービスセクター CAXO(Chief AI Transformation Officer)の吉田 順 氏

AIエージェントの適用業務を3レイヤーに分けて活用を推進

 日立製作所を持ち株会社とする日立グループは、グローバル6極で4つの主力事業を展開している。デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズである。グループ全体の従業員数は28万人で、その6割がグローバルで活動している。「グローバル比率は年々、高まっている」(吉田氏)という。

 28万人によるAIエージェントの利用に向けては「業務を3つのレイヤーに分けて推進している」と吉田氏は話す(図1)。

図1:日立グループでは業務を3つのレイヤーに分け、それぞれでAIエージェントを使った業務改革に取り組んでいる

レイヤー1=一般業務 :文書の要約や翻訳、文書検索、資料作成などに「ChatGPT」(米OpenAI製)や「Microsoft Copilot」(米Microsoft製)、「Google Gemini」(米Google製)を利用している

レイヤー2=間接部門の業務 :例えば企画や営業、人事、法務部門での利用。これまでに数百、数千というユースケースが生まれている

レイヤー3:事業ラインの業務 :システム開発やコンタクトセンター、機器・設備の保守などが該当する。例えばシステム開発では、要件定義から結合・総合テストまでの全工程に生成AI技術を適用しており「開発生産性は約3割向上した」(吉田氏)

 これらのうち、レイヤー2の間接部門にはエンジニアがおらず「AI活用の推進は難しい面もあった」と吉田氏は話す。「『今の業務を変えたくない』という“守りに入る人”も多い」(同)という理由もある。

 一方でレイヤー3の保守部門では「グローバルで人材がなかなか集まらず、熟練者の高齢化が進んでいることもあり『ナレッジを継承しないと、この先やっていけない』との危機感が募っていた」(同)という。

熟練者の思考プロセスまでをAIに指示して回答精度を高める

 生成AIシステムの性能は、ここ数年で飛躍的に高まっている。だが学習しているのは一般的な知識のみ。そこで保守業務の用途では「設計書や取扱説明書、保全記録などを学習させている」(吉田氏)。だが「これだけでは熟練者の代わりはできない」(同)という。「知識には形式知と暗黙知の2種類あり、知識の3~4割は熟練者の頭の中にある暗黙知だからだ」(同)

 また、保全員が発見した障害に対し、その原因と対策を10秒以内に回答する生成AIシステムを開発した際は、取扱説明書と保全記録を学習させたものの「回答精度は6割程度にしか高まらなかった」(吉田氏)と明かす。

 理由は「類似の故障や新規の故障について学習しておらず、現場が利用できるだけの回答を生成できなかった」(吉田氏)ためだ。そこで、類似や新規の故障に対しても熟練者同様の回答を生成できるよう「ナレッジグラフという手法を使って図面を学習させた」(同)

 その上で、熟練者の思考と同じ流れで対策を立案できるよう、生成AIシステムには「障害の把握から、制御構造の分析、欠陥の特定、対策の立案という熟練者の思考プロセスで考えるよう指示している」(吉田氏)。これらにより回答精度は「6割強が9割にまで高まった。現場からも『保全員と同等以上』『現場で使える』と高評価を得られた」(同)とする(図2)。

図2:保全設備用の生成AIシステムでは、図面や熟練者の分析プロセスまでを学習・指示することで回答精度を9割にまで高めた

 ただ「熟練者の暗黙知を引き出すのには苦労している」と吉田氏は明かす。「ストレートに『暗黙知を教えてください』と頼んでも『暗黙知なんかないよ』という声が返ってくることが多い」(同)からだ。