• UseCase
  • 製造

荏原製作所、技能継承に向けAIエージェントで暗黙知を形式知化する基盤構築を本格化

ANDG CO., LTD.
2026年4月17日

荏原製作所は、製造現場の暗黙知を形式知へと変換・蓄積・活用するための基盤を構築するプロジェクトを、2026年3月16日から本格始動している。自社開発した設計開発支援システムとAIエージェント基盤を統合し、社内での技能や知識の継承を推進する。同日に発表した。

 荏原製作所が2026年3月16日から本格始動しているのは、製造現場に蓄積された暗黙知を形式知へと変換・蓄積・活用する基盤を構築する「知識駆動型DXプロジェクト」。同社は本プロジェクトを、知識を競争力の源泉とする「Knowledge-Driven DX」を実現する試みと位置付ける。AI(人工知能)技術と人が共に知識を生み出し、活用して、熟練者の技能や知識の継承を進めるとともに、新たな価値創出や持続的成長を目指すのが目的だ。

 プロジェクトでは、AIエージェントによって知識の集約・深化・交換を可能にする仕組みを「知識駆動型AIプラットフォーム」として構築し、実用化を目指す(図1)。そのために自社開発した(1)設計開発支援システム「EBARA 開発ナビ」、(2)自律分散型AIエージェント基盤「Ebara Brain」の2つのシステムを統合する。

図1:業務フローと意思決定に内在する暗黙知を形式知化する「知識駆動型AIプラットフォーム」の概要

 EBARA 開発ナビは、設計・開発における思考プロセスそのものを構造化し、暗黙知を段階的に形式知へと落とし込むシステム。大・中・小のプロセスやタスク単位で業務を分解し、入力諸元から出力諸元に至るまでの論理、判断根拠、アドバイス、イレギュラー対応といった知識を体系的に記述する。設計プロセスの中で必要な知識を明示的に参照しながら業務を進めることで、手戻りの最小化と知識の蓄積・共有を両立する。

 Ebara Brainは、構造化された知識を生成・拡張・活用するAIエージェント基盤。各エージェントが相互に作用しながら知識を更新し続けることで、個人に依存していたノウハウを組織全体の知的資産へと転換する。社内GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)クラスタ上で稼働するオンプレミス型で、外部通信を伴わずに処理することで、知識の流出などセキュリティの課題にも対応している。

 AIエージェントとして具体的には、知識処理の役割ごとに以下の4つを連携させる。

(1)形式知化エージェント:暗黙知を抽出して形式知に変え、各種データと統合して知識データベースを構築する
(2)ヒアリングエージェント:現場スタッフなどに向けた質問を自動生成し、対話を通じて知識を補完し精度を高める
(3)エキスパートエージェント:知識データベースを活用して、専門性が高い業務を支援する
(4)パーソナルエージェント:利用者個人が持つ知識や傾向を踏まえて、他のAIエージェントと連携しながら作業を支援し、知識を拡張する

 給水ユニット設計を対象としたEbara BrainのPoC(Proof of Concept:概念実証)では、人による設計プロセスと比較して85%の精度を達成した。また設計諸元間の関係性予測では、生成AI技術を活用して83%の精度を得た。全体としてリードタイムを80%削減できたという。

 知識駆動型AIプラットフォームには、物理(フィジカル)空間とデジタル(情報)空間に、知識空間を統合する三層構造「デジタルトリプレット(Digital Triplet)」の概念を採用した(図2)。東京大学 教授の梅田 靖 氏の提唱によるもので、双対構造のデジタルツインを拡張し、AI技術が知識を推論し、継承・再利用するための枠組みとなる。

図2:物理空間、デジタル空間に加えて知識空間を統合し、知識の形式化と活用を可能にする「デジタルトリプレット」の概念図

 プロジェクトは段階的に進めており、今回2026年の本格稼働はフェーズ2に当たる。今後は2027年(フェーズ3)に外部企業との連携やEbara Brainのサービス化を進め、2028年(フェーズ4)には知識基盤の事業化・収益化とともに知識経済圏の提案、国際標準化への対応に踏む込む計画である。

 荏原製作所によれば、製造現場における構造的な人材不足がある。暗黙知はとりわけ、熟練技術者のOJT(On-the-Job Training)や口伝により継承に努めていたが、近年は熟練技術者の退職を補えるほどの後継者がおらず、喪失するケースが増えてきている。

 経済産業省『2025年版ものづくり白書』でも、能力開発・人材育成の最大の課題として「指導する人材の不足」(65.9%)が挙げられている。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名荏原製作所
業種製造
地域東京都品川区(本社)
課題熟練技術者の減少により、OJTや口伝に依存してきた設計・製造現場の暗黙知の継承が難しくなり、ノウハウが形式化されないまま失われるリスクが高まっている
解決の仕組み設計プロセスと判断の根拠を構造化して形式知として蓄積する仕組みと、暗黙知の抽出・補完・活用を担うAIエージェントを組み合わせ、知識を継承・再利用できる基盤を整備する
推進母体/体制荏原製作所
活用しているデータ設計・製造データ、作業履歴などの形式知、熟練技術者の判断理由やノウハウなどの暗黙知
採用している製品/サービス/技術設計開発支援システム「EBARA開発ナビ」(荏原製作所製)、自律分散型AIエージェント基盤「Ebara Brain」(同)
稼働時期2026年3月16日(プロジェクトの本格始動日)