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JCOM、AIをテコにした全社構造改革に向け現場主導で業務を再設計
ケーブルテレビ事業などを展開するJCOMが、AI(人工知能)技術をテコに全社的な構造改革に乗り出している。現場主導で業務を再設計するための横断組織「AI-CoE(AI Center of Excellence」も設置する。その一環で、対話型AIアバターを開発し、顧客向け新サービスとして2026年上期にも提供する。2026年3月2日に発表した。
「ケーブルテレビを祖業とする当社は、決してデジタルからビジネスを始めてきた会社ではないため、従業員のデジタル対応には苦労もある。だが、AI(人工知能)技術の進化は、顧客価値の最大化と社内業務の構造改革を図るドライバーになる」--。JCOM データビジネス企画部長の鎌田 幹生 氏は、全社の構造改革にAI技術をテコにする理由を、こう説明する(写真1)。
横断組織「AI-CoE」がAI技術の全社導入を推進
鎌田氏は、データビジネスの企画・立案を統括しながら、AI技術の全社導入の推進役を担う。データビジネスでは、自社で蓄積する577万世帯のビッグデータと、10年以上に及ぶAI・データ分析の知見を、B to B(企業間)とB to G(企業対自治体)領域へのサービスとして提供している。同社のAI・データ分析では「社内のデータサイエンスチームが主導し、機械学習や統計学を使って現場の複雑な課題を解決してきた」(鎌田氏)という。
その実践的なノウハウは、広告・マーケティングの最適化や、地域のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に利用できるとする。特に「リソースが限られる中小規模のケーブルテレビ会社に対し当社の知見を提供するは、業界全体の底上げにもなる」(鎌田氏)と意気込む。
AI技術の全社導入に向けては横断組織「AI-CoE(AI Center of Excellence)」を置いている。2024年からはAI-CoEが「全社選抜タスクフォース」を本格的に立ち上げている。メンバーは、全社1万5000人の従業員の中からAI技術の推進役として各部門長が選抜。「実際の業務フローから、自分たちの部署でAI技術のどんな使いどころがあり、どういった効果が期待できるのかを企画するワークショップを開催している」(鎌田氏)。メンバー数は2025年末までに60人に増えた。
加えて、各部門でのAI活用によって生じるBPR(Business Process Reengineering:ビジネスプロセス再設計)に対応するために、現場の業務を熟知する「AI導入コンサル」を新たに配置した。「人材をコンサルティング会社から招くのではなく、現場の業務に精通したメンバーを充てている。BPRには、事業構造に明るい人間が伴走するのが最も効果的」(鎌田氏)との考えだ。
番組を提案するAIアバターを2026年上期には商用化
AI-CoEでは、商品/サービスのデジタル化にも取り組む。その一環として、顧客接点を強化するための対話型AIアバター「J:COMデジタルヒューマン」を2025年8月から開発を進めてきた。現在はプロトタイプ「ユイ」が完成した段階で「2026年上期の商用展開を目指す」(鎌田氏)という(図1)。
ユイは、視聴者との音声での対話内容を生成AI技術で解析し潜在的な要望を言語化し、視聴者の“今の気分”に合った作品を選び出して提案する。例えば「おすすめの日本映画は」といった問いかけをきっかけにアバターが会話を続けて視聴者の興味を深掘りする。鎌田氏は「視聴したい番組のイメージがあいまいでも、会話を重ねることでコンテンツにたどり着ける」と説明する。
開発方針を鎌田氏は「主な顧客であるシニア層のUX(User Experience)向上を主眼に置いている」と説明する。「今のシニア層はスマートフォンを使いこなしてはいても、何か困りごとがあっても、その内容を的確にテキスト入力したり、要望を具体的に言語化したりが難しいというシニア特有の“入力のハードル”があるためだ」(同)
ユイの生成AIには、同社の動画配信サービス「J:COM STREAM」で視聴可能な約15万作品のメタデータを学習させた。ハルシネーション(幻覚)を防止するために独自のガードレール機能も搭載する。今後は「会員の視聴履歴などとも連携し、よりパーソナライズした体験を高度化していく」(鎌田氏)という。番組提案でのUXの向上が確認できれば「コンタクトセンターや営業活動などへ展開する」(同)方針だ。
番組の企画から配信までを対象にしたAI機能も開発
AI技術の活用は、番組の企画から収録・編集、放送・配信までのバリューチェーン全体でも進めている。番組メタデータの自動生成が、その一例。番組の説明文から、そのジャンルや、ターゲットにする視聴者像、ムード(雰囲気)といったメタデータを生成し、それを番組のリコメンドに組み込む。JCOMが配信する番組では「例えばCS(通信衛星)放送や専門チャンネルなどでは視聴機会が埋もれている番組が多数ある」(鎌田氏)という。
研究開発中の取り組みに、ダイジェスト動画の自動生成がある。「視聴スタイルの多様化や、“タイパ(Time Performance:時間対効果)”ニーズの高まりに答えるのが目的」(鎌田氏)だ。「番組の概要紹介や新しい視聴体験の1つとしても検討していく」(同)と期待する。
ダイジェスト動画が自動生成では、個々の視聴者が、例えば「食事が映っているシーン」や「特定のタレントが登場しているシーン」などを指示すれば、それに合った映像を番組から抽出し、1〜2分程度のダイジェスト版にまとめる。「感動するシーン」など、より抽象度の高い要望や、感情に関わるシーンの抽出精度を高めたい考えだ。
これらの開発では、著作権保護やセキュリティを考慮し、オープンLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)をローカル環境で稼働させている。学習においても「自社で直接収集したデータを使い、サービスの独自性を高めている」と鎌田氏は説明する。
| 企業/組織名 | JCOM |
| 業種 | サービス |
| 地域 | 東京都千代田区(本社) |
| 課題 | 顧客価値の最大化と社内業務の構造改革を図るためにAI技術をテコに全社の構造改革を図りたい |
| 解決の仕組み | 全社横断の推進組織「AI-CoE」を中核に、現場へのAI技術導入を推進する「全社選抜タスクフォース」や、BPRに対応するための「AI導入コンサル」を設置し、現場主導でAI技術活用を進める |
| 推進母体/体制 | JCOM |
| 活用しているデータ | 約15万作品のコンテンツメタデータ、577万世帯の顧客データなど |
| 採用している製品/サービス/技術 | 対話型AIアバター「J:COMデジタルヒューマン」(JCOM製)、動画配信サービス「J:COM STREAM」(同) |
| 稼働時期 | 2026年上期(AIアバターの商用提供開始予定) |

