- Column
- 「知る」から「使う」へ、生成AI活用の最前線
JCOM、全サービスのCXを“全員参加型”のAI技術活用で高める
「生成AI Day 2025」より、CX・マーケティング部門 DXデザイン本部の鎌田 幹生 氏
ケーブルテレビ事業などを手掛けるJCOMは、CX(Customer Experience:顧客体験)を高めるために種々の領域でのAI(人工知能)技術活用を進めている。同社 CX・マーケティング部門 DXデザイン本部 データビジネス企画部 部長の鎌田 幹生 氏が「生成AI Day 2025」(主催:インプレス、2025年9月18日)に登壇し、AI技術導入を推進する「AI-CoE(Center of Excellence)」の活動と、導入事例などを紹介した。
「顧客の行動を多角的に捉え、1人ひとりに合った番組やサービスを提案するための仕組みを内製している」--。JCOM CX・マーケティング部門 DXデザイン本部 データビジネス企画部 部長の鎌田 幹生 氏は、自社でのAI活用について、こう説明する(写真1)。
JCOMは、ケーブルテレビやインターネット通信を中心に、電力・ガス、保険、オンライン診療などの家庭向けサービスを展開している。スポーツ専門チャンネル「J SPORTS」や映画配給などのメディア事業も手掛け、近年は地域企業を対象にしたBtoB(企業対企業)サービスにも注を入れている。
事業領域を広げる中で同社が扱うデータは、契約情報や視聴データ、アプリケーションのログ、コンタクトセンターでの応対履歴など多岐にわたる。対象世帯は約570万世帯にのぼる。
その中で鎌田氏は「ビッグデータ活用戦略の立案からAI(人工知能)技術導入の推進まで」をリードする。2016年からデータ活用基盤の整備に取り組み、機械学習モデルの構築やレコメンドエンジンの開発などに、冒頭にあるように内製で取り組んできた。
AI活用を推進する横断組織を核に“全員参加型”に転換
これまでJCOMは、データ活用や機械学習、可視化や集計といった分析業務は「社内のデータサイエンス専門チームが中心になって進めてきた」(鎌田氏)。ただ「ビッグデータを扱う知見やツールが限られていたことから、体制はやや中央集権的な運用に寄っていた」(同)という。
それを現在は「全員参加型へと方針を転換した」(鎌田氏)。生成AI技術の登場を追い風に「専門チームだけが扱う体制から、社員1人ひとりが自らAI技術を使い、業務改善や新しい価値創出に取り組む」(同)のが目標だ。ただ事業会社がAI技術を採用する上では、次のような課題があると指摘する。
「グローバルなテック企業のようにAI技術の専門家を大量に抱えたり、高度な技術者を自前で育てたりするのは難しい。外部の技術やツールをうまく取り入れ、その恩恵を比較的容易に活用できる仕組みが重要だ。そうした環境が整えば専門家がいなくてもAI技術を事業に取り込めることが期待できる」
この方針転換を具現化する中核組織として、社内横断の専門組織「AI-CoE(Center of Excellence)」を設立した(図1)。データサイエンスや情報システム、法務・リスク管理など複数の部門からメンバーを集め「AI技術の最新動向の調査から技術支援、プロジェクトの伴走まで幅広く担っている」と鎌田氏は話す。
AI-CoE設立の狙いを鎌田氏は「全社的にAI活用を推進するには、まずは旗振り役となる専門チームをバーチャルに組成した」と話す。AI-CoEを核に、社員全員が日常業務にAI技術を使えるようにするために、次の3つのアプローチを取っている。
アプローチ1=個人の生産性向上 :「ChatGPT」(米OpenAI製)などの生成AIツールを使い、社員が効率的に業務を進められるよう学習機会と環境を整備する
アプローチ2=組織の業務プロセス改革 :現場主導でAI技術を使った改善アイデアを募り、ボトムアップで業務を再設計する
アプローチ3=商品/サービスのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進 :テレビやモバイルアプリなどの顧客接点にAI技術を組み込み、より質の高いCX(Customer Experience:顧客体験)を実現する
特に2つめのボトムアップの取り組みに力を入れる。「全社からメンバーを選抜し、勉強会やワークショップを通じてAI技術のユースケースを検討したところ、数百件の企画が生まれた」と鎌田氏は説明する。
「AI技術の可能性と実現性の両方を理解したうえでユースケースを検討したことで、現場の課題に即したリアリティのあるアイデアが次々に生まれている」(鎌田氏)とする。それらは個別にプロジェクト化し進めているのが現状だ。

