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東洋紡、現場が言葉を“教えて育てる”AIエージェントで製造の知見を引き出す

「AWS Summit Japan 2026」より、TX・業務革新総括部の坂倉 広也 氏

森 英信(アンジー)
2026年10月7日

東洋紡は、現場の意識や行動、組織風土まで変える活動「TX(Toyobo Transformation)」の一環として、製造現場への生成AI(人工知能)技術の導入を進めている。同社 TX・業務革新総括部の坂倉 広也 氏が「AWS Summit Japan 2026」(主催:アマゾン ウェブ サービス ジャパン、2026年6月25日〜26日)に登壇し、現場と共に育てる「エージェンティックRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」の設計と運用について話した。

 「生成AI(人工知能)技術やRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を導入さえすれば、現場に製造の知識やノウハウが行き渡ると思っていた。だが進めるうちに、届かないが壁あると考えるようになった」--。東洋紡 TX・業務革新総括部の坂倉 広也 氏はこう話す(写真1)。

写真1:東洋紡 TX・業務革新総括部の坂倉 広也 氏

 素材メーカーの東洋紡は1882年(明治15年)の創立から140年以上の歴史を持つ。リサイクルPET樹脂を用いたフィルムや海水淡水化用の逆浸透膜、生化学検査薬の原料酵素など、手掛ける素材は幅広い。

 坂倉氏自身は大学院まで化学を専攻し、2024年の入社後は研究所でMI(マテリアルインフォマティクス)を推進に携わる。現在は製造現場への機械学習と生成AI技術の導入を担当する。

 同社は、現場の意識や行動、組織風土にまで踏み込む変革活動を「TX(Toyobo Transformation)」と呼ぶ。坂倉氏は「生成AI技術を紹介して『はい、使ってください』で終わりにせず、現場と一緒に育てていく」と導入の狙いを語る。

「探せない・伝わらない・生かされていない」現場の知識

 坂倉氏らが製造現場にヒアリングすると、共通する構造が浮かんだ。1つは、日々の操業やトラブル対応に追われ、過去の文書を調べたり更新したりする時間を取りにくい「忙しさ」。次に、ベテランの勘所が会話や作業の中に埋もれ、次の世代に渡りにくい「属人化」。そして、製品や条件、設備、工程の組み合わせが増え続け、特定の詳しい人に負荷が集中する「複雑化」である。

 この3つが重なり、現場の知識は「探せない」「伝わらない」「生かされていない」状態に陥っていた。日報やトラブル記録は蓄積が進む一方、次の課題解決にすぐ使える形になっていない。坂倉氏は「製造現場の言葉と、文章に残された知識がつながっておらず、必要な情報が、必要な人に、必要なタイミングで届きにくかった」と整理する。

 現場の要望は4つあった。(1)普段の呼び方で聞いても通じること、(2)一度教えた言葉を次に生かすこと、(3)ざっくりした状況から似た事例を絞ること、(4)使ううちに現場にフィットしていくことだ(図1)。

図1:現場からの4つの要望と開発のステップ

 坂倉氏によれば「とりわけ重要だったのが(1)普段の呼び方で聞いても通じること」だ。例えば「工場ごとに略語や俗称があり、その単語が通じなければ会話が始まらない」(同)という。そこで出だしの目標に据えたのは、現場の言葉を理解し、足りない情報を補いながら知識へとつなぐこと」(同)となった。

シンプルなRAGは精度5割弱で現場では使えない

 最初の一歩は、シンプルなRAGだった。現場用語を整理し、社内文書とともにRAG構築サービス「Amazon Bedrock Knowledge Bases」(米Amazon Web Services製)に投入して、検索の仕組みを整備した。

 精度の評価には、評価用ツール「Amazon Bedrock Evaluations」を使った。LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)に回答を採点させる「LLM-as-a-Judge」の手法で、社内用語集111項目で正確性を測る。

 しかし「正確性スコアは0.45と5割に届かなかった」(坂倉氏)という。現場からは「『行動を変えるだけの労力に見合わない』『現場では使えない』などと否定的な声さえ返ってきた」(同)