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第一三共、エージェンティックAIを創薬研究の戦力へ実験の自動化基盤を構築

「AWS Summit Japan 2026」より、研究開発本部 研究統括部 スマートリサーチ第一研究所長の岡本 敦之 氏

森 英信(アンジー)
2026年10月2日

研究開発型の製薬企業である第一三共は、クラウド基盤の上に「スマートラボ」を中心とする「デジタル化創薬研究プラットフォーム」を構築し、研究のデジタル化を段階的に進めている。同社 研究開発本部 研究統括部 スマートリサーチ第一研究所長の岡本 敦之 氏が「AWS Summit Japan 2026」(主催:アマゾン ウェブ サービス ジャパン、2026年6月25日〜26日)に登壇し、創薬研究における自動化に向けたエージェンティックAI(人工知能)に、研究のコンテキスト(文脈)を理解させる「Semantic Hub」構想について話した。

 「エージェンティックAI(人工知能)の動向はもはや無視できない。取り組まざるを得ない状況になってきた」--。製薬大手の第一三共で、研究開発本部 研究統括部 スマートリサーチ第一研究所長を務める岡本 敦之 氏はこう話す。同社はこれまで「人がデータを駆使することを前提に研究基盤を築いてきた」(同)。だが「2025年ごろから、その前提が変わり始めている」(同)という。

写真1:第一三共 研究開発本部 研究統括部 スマートリサーチ第一研究所長の岡本 敦之 氏

2万5000分の1の新薬開発成功確率を高めたい

 第一三共は、新薬の探索から開発、販売までを手掛ける研究開発型の製薬企業だ。1つの新薬が患者の元に届くまでには9〜16年という歳月と、数百億円から1千億円を超える開発費を要する。その中で岡本氏は「研究に着手した化合物が実際に新薬となる確率は2万5000分の1に過ぎない」と説明する。

 さらに特許が切れれば後発医薬品(ジェネリック)が登場し、売上は減っていく。だからこそ「製薬企業は、新薬開発の成功確率を高め、コストを抑える挑戦を続けなければならない」と岡本氏は強調する。

 この難題にデジタルとAI技術をどう生かすか。実際同社は、研究のデジタル化に取り組んできた。2年前の「AWS Summit Japan 2024」で岡本氏は「データ駆動型創薬」を最終目標に掲げ、その第一歩として研究者が自分たちのために構築したセルフサービス型のクラウド基盤を紹介した。

 岡本氏はその次なる段階として、クラウド基盤「AWS」の上に「『スマートラボ』を中心とする『デジタル化創薬研究プラットフォーム』の構築を進めている」と説明する。

研究者の頭の中にある「暗黙知」を可視化する

 デジタル化創薬研究プラットフォームの柱は大きく、(1)研究活動のドメインモデリング、(2)スマートラボの構築、(3)データ基盤の整備、という3つにまとめられる。

 中でもドメインモデリングがプラットフォーム構築の出発点だ。岡本氏は創薬研究を「暗黙知の塊」だと表現する。研究者が日常的にこなす活動の多くは、本人の頭の中にとどまったままだからだ。

 そこで第一三共が適用したのが、ソフトウェア開発で用いられる「ドメイン駆動設計(DDD)」の考え方だ。研究者とエンジニアが協働で研究プロセスを分析・構造化することで、知識のドメインモデルを可視化する試みである。その意義を岡本氏は「いつどこでどんなデータが生まれ、誰がどんな判断をしているのかが明らかになる」と話す。

 具体的にモデリングを進める手法としては「イベントストーミング」というフレームワークを採り入れた(図1)。業務の中で実際に起きている出来事「ドメインイベント」を起点に、そこに関わる人やデータ、意思決定、外部システムを芋づる式に引き出し、可視化する。

図1:研究者とエンジニアによるイベントストーミングの概要

 イベントストーミングは一般的に、ワークショップ形式で壁に付せんを貼りながら進める手法として知られている。岡本氏は「研究者にとって日常的な作業の延長線上で切り込めるため、最初のハードルが低い」と説明する。これを通じて、研究者とエンジニアが共通の言葉(ユビキタス言語)を形成しながら相互理解を深め、暗黙知を形式知化していく。