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- 大和敏彦のデジタル未来予測
動き出すステーブルコイン、デジタル通貨が起こす変革とは【第97回】
ブロックチェーンと組み合わせた変革が始まっている
デジタル通貨は、これまでの通貨による仕組みを大きく変え、新しい仕組みを作り上げる。他のデジタルアセットとの組み合わせによって新しいサービスやビジネスを立ち上げられる。既にデジタル通貨とブロックチェーンを使ったDX(デジタルトランスフォーメーション)が起こり始めている。以下のような例が挙げられる。
スマートコントラクトによる自動化
ステーブルコインの実装にはブロックチェーンが使われている。ブロックチェーンシステムの機能に「スマートコントラクト」と呼ぶ仕組みがある。ブロックチェーン上で、事前に設定しルールに従って取引やプログラムを自動的に実行する。この機能により、企業間契約に基づいた取り引きや、荷物を届けた際の支払いなど、一定条件が満たされたときの自動決済が実現する。
国際決済の効率化と変革
従来の銀行間決済システムを使わず、24時間265日活用できる即時決済システムを構築でき、高い効率性を実現できる。送金だけでなく、グローバルな取引における貿易決済やグローバル企業の資金管理の効率も高められる。サプライチェーンの決済とトレーサビリティを統合した管理も可能になる。
グローバルな決済システムでは、米JPモルガンが、ブロックチェーン決済基盤「Kineys(旧Onyx)」とステーブルコインの「JPMコイン」によって、24時間365日使用できる自動マルチ通貨決済の金融サービスを開始している。この仕組みと連携すればマルチ通貨決済を実現できる。SBI新生銀行はDCJPYによる即時・低コストの国際送金を計画している。
物や権利のデジタルアセット化による新ビジネス
『デジタルトークン化が、様々な資産の流動性を高める【第72回】』のなかで触れたように、資産のデジタル化をブロックチェーンによって実装できる。通貨や保険、証券、不動産以外にもデジタルトークン化が進んでいる。トークン化の決済にデジタル通貨を使う動きが加速する。モノや権利をデジタルアセット化した決済の仕組みを実現できる。NFT(Non Fungible Token)による証明も組み合わせられる。
例えば、ディーカレットDCP、IIJ(インターネットイニシアティブ)、GMOあおぞらネット銀行の3社は2025年8月28日、DCJPYを使った「非化石証書」のデジタルアセット化を開始した。IIJは2023年10月から白井データセンターの顧客を対象に非化石証書の代理調達サービスの環境価値をデジタルアセット化しており、それをDCJPYで決裁する。カーボンニュートラル関連の取引が透明かつ即時に行えるようになり、ESG投資・環境関連ビジネスの基盤になる。
資金調達
デジタル証券と連携させれば、公募の自己募集が可能になる。「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」と呼ぶ中央集権的な管理者が存在せず、ブロックチェーン技術を用いてメンバーによって自律的に運営されるWeb3型コミュニティとの相性がいい。
例えば、ブランドとそのファンを支援するDAOファントークンによる資金調達などにも使われている。ゲームの分野でも、暗号通貨からデジタル通貨によってリアルマネーによる取引が可能になる。
デジタル通貨の競合が激しくなる
ただ今後、デジタル通貨の競合が激しくなり、さまざまなデジタル通貨が現れると、寡占やそれらに分散された資金の管理の問題も生じる。デジタル化によるサイバー攻撃や詐欺の危険性も増える。ブロックチェーンを使った仕組みでも、取引所や発行体が被害を受ける可能性がある。利用者に対してもハッキングやフィッシング詐欺による被害が増える危険性がある。
デジタル通貨の普及とそれによる改革は、デジタル通貨の使い易さと共に、安心・安全に使えることが市場成長の基礎になる。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。