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動き出すステーブルコイン、デジタル通貨が起こす変革とは【第97回】

価格変動のないデジタル通貨が広がりつつある。JPYCがステーブルコイン「JPYC」を発行し、デジタル通貨フォーラムが推進するデジタル通貨「DCJPY」は、ゆうちょ銀行やSBI新生銀行などが採用を決めた。今回は、変動のないステーブルコインを中心にデジタル通貨の動向と、そのインパクトを見てみたい。
ステーブルコインは、従来のビットコインのような暗号資産が大きな価格変動リスクを持つのに対し、価格変動を最小限に抑え、決済手段や価値の保存手段として使われることを目指しているデジタル通貨である。発行元は、銀行口座などを持つ機関に準備金を保管するなどによって、ステーブルコインの価値を担保する。改正資金決済法に基づき発行され、その信頼性は、発行体の信用に依存する。
決済手段として、現金のやり取りは効率が悪く決済に時間がかかることや高い手数料が課題だ。キャッシュレス決済はプラットフォームに依存し、それを越えた使い方が難しい。クレジットカードは手数料が高いという課題がある。これらの課題を解決する手段として、変動がなく信頼性が高いデジタル通貨が期待されている。
ステーブルコインの価格変動を抑える方法は3つ
ステールコインは、価格変動を抑える方法によって次の3種類に分類される。
担保型-金融資産担保 :金融機関などに、発行するステーブルコインの総額以上の米ドルや金、債券などを金融資産の形で準備金として保管し、それを担保としてステーブルコインを発行する。日本で開始するJPYCが、その1つで、預貯金や国債を裏付け資産に円と連動し、1JPYCは1円と交換できる。
担保型-暗号資産担保 :ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を担保として、その資産価値でステーブルコインを発行する。暗号資産の価格変動を受けるため、担保の仮想通貨の下落に対して価格を保てるよう過剰の担保が必要になる。さらに担保資産の価格変動を把握し、安全な流通量を管理する方法を準備しなければならない。
アルゴリズム型 :アルゴリズムによって、ステーブルコインの価格が法定通貨と連動するように供給量をコントロールする。そのため大きく変動するリスクがある。例えば、韓国のTerraformLabsが発行する「TerraUSD」はアルゴリズム型ステーブルコインで、2022年5月に米ドルとの連動(ペッグ)が外れ価格が99%下落している。
ステーブルコインのメリットには次のようなものがある。
●日常決済への使用:価格変動リスクが少なく価格が安定しているため、日常決済の手段として利用できる。使用環境もスマートフォンとインターネット環境があればサービスを使える
●決裁効率:24時間365日使え迅速な決済が可能である
●透明性:デジタル通貨を使った取引記録はブロックチェーンに記録されるため、確認や監査が容易である
このように簡易性、迅速性、柔軟性を持つステーブルコインは、海外送金から活用が広がっており、SWIFT(国際銀行間金融通信協会)を使った送金に比べ、安価で柔軟性の高い国際送金サービスが始まっている。
一方、ステーブルコインの課題としては、基軸通貨との連動(ペッグ)の不確実性や、発行元の信用のリスクがある。流通量が少ないステーブルコインでは、希望時に使えない可能性もある。金融に関する規制の変更や新たな規制の対象になることもある。
電子マネー型デジタル通貨「DCJPY」の採用が進む
ビジネス変革を目的にしたデジタル通貨には、ステーブルコインと似た動きをする電子マネー型デジタル通貨がある。その代表例がデジタル通貨フォーラムが推進する「DCJPY」だ。2024年7月から商用化が始まっている。
デジタル通貨フォーラムには、都市銀行やネット銀行のほか、証券や保険、製造などの行かを含め100社以上が参加している。銀行口座による銀行預金を裏付けにする日本円のデジタル通貨で、銀行口座から日本円を引き落とすことでDCJPYが発行されるなど電子マネーに似た仕組みを持つ。
DCJPYの発行元は銀行免許を持つ銀行だ。資金決済法と銀行法に基づき発行・運用され、預金保険制度によって保護の対象になる。本人確認(KYC:Know Your Customer)が必要であるなどのセキュリティ対策も講じられており、マネーロンダリング対策も強化されている。
その特徴は、安全なデジタル通貨という点に加え、ビジネス変革への活用を考慮していることである。デジタル通貨を実現するファイナンシャルゾーン(FZ:Financial Zone)と、モノや権利の台帳を持ち移動を記録しビジネスの活用を推進するビジネスゾーン(BZ:Business Zone)との独自の2層ブロックチェーンを持っている。金融とビジネスのブロックチェーンを分離することで、安全性や柔軟性を実現する。BZでの金銭のやり取りはFZに指示され、DCJPYが移転される。
DCJPYを採用する企業が増えている。GMOあおぞらネット銀行は2024年からディーカットレットDCPと連携し本格的な運用を開始した。ゆうちょ銀行は2025年9月にDCJPYネットワークへの参入を正式発表した。2026年からサービスを開始し、190兆円規模の預金を活用した通貨サービスを予定する。
SBI新生銀行も低コストで迅速な国際間の送金や企業間取引へのDCJPYの適用を検討している。今後、メガバンクや地域金融機関などが参入すれば、流通や個人利用にも使用が拡大していくだろう。