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変貌するIoT(Internet of Things)の世界【第98回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年11月17日

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の利用が急速に広がっている。スマートフォンやスマートウォッチなどのウェアラブル機器、自動車、産業機器、家電など、さまざまな機器がIoT接続され、それらを使ったDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいる。今回は、IoTの最新動向を見てみたい。

 世界のIoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイスの普及台数は2025年に約440億台に達すると予測されている(キーエンス調べ)。IoTが増加している要因としては次の3つが挙げられる。

要因1 :センサーやデバイスの進化などによるコネクティッドデバイスの進化
要因2 :5G(第5世代移動体通信)の普及による低遅延、多接続ネットワークの広がり
要因3 :生成AI(人工知能)技術の進化による意思決定や自動化への応用の広がり

要因1:センサーやデバイスの進化によるコネクティッドデバイスの進化

 世界のスマホの出荷台数は2025年第3四半期に前年比2.6%増の3億2270万台で、伸び率は前四半期の1%増から加速した(ロイター調べ)。スマホの普及により、その成長は鈍化し買い替え需要が主流にはなっているものの、ウェアラブル機器や「走るスマホ」と呼ばれるEV(Electric Vehicle:電気自動車)など、さまざまなデバイスが“コネクティッド”になりIoTとしての台数は増えている。

 デバイスの小型化や感覚器のデジタル化などに伴うセンサー技術の進化によりウェアラブル機器の適用範囲は広がっている。メガネ型だけでなく、腕時計・リストバンド型、指輪型、イヤホン型、クリップ型など、さまざまな形のウェアラブルデバイスが登場している。これらがWi-FiやBluetoothなどのワイヤレスネットワークによってIoT化されている。

 ウェアラブル機器の一例が、米Metaが先頃発表した「Meta Ray Ban AIグラス」だ。メガネ型デバイスで、コンピューターとスピーカーを内蔵し、装着すれば600 × 600ピクセルのフルカラーディスプレーとして画像を見ることができる。

 『「Apple Vision Pro」などHMD(Head Mounted Display)の進化がメタバースの利用を加速する【第78回】』で取り上げた米Appleの「Apple Vision Pro」は、その価格や大きさから常時の装着と使用が難しいが、Meta Ray Ban AIグラスは常時装着して生活しても問題がない。「Meta AI」と連携し、音声による操作ができるなどAR(Augmented Reality:拡張現実)の普及にも貢献する。

 同時に「Meta Neural Band」というリストバンドも発表した。前腕の筋肉が発する電気信号を利用する筋電図技術を応用し、わずかな手の動きだけで直感的に操作できる。Neural Bandの学習にもAI技術が使われている。

 このようなウェアラブル機器は、音声や画像による記録、情報のリアルタイム表示、AR表示、字幕機能や翻訳、ナビゲーションを実現でき、製造や医療、観光などの領域におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)にも応用できる。

 一方のEVでは、どこでもネットワークに接続できるコネクティッドカーが広がっている。『SDV(Software Defined Vehicle)など“コネクティッド”による変革が広がる【第89回】』で述べたように、自動車のソフトウェアダウンロードや新しいソフトウェアの販売が可能になり、データの活用も始まっている。自動車や運転者の状況データを取得し、運転車の走りに合った保険を設計にできるテレマティック保険も発売されている。

 ほかにも、エンタテインメントや運転者を支援する機能も増えている。具体的は、自動車とのコミュニケーションによる盗難車両追跡システムや、車と運転者の状況をネットワーク経由で知らせ、燃料補給や疲れに応じた休憩の提案、渋滞を避ける最短ルートの提案などである。今後、自動運転車が増えれば、自動運転車への状況報告やモニタリングなどのためのインフラがIoTによって実現され、リアルタイムな監視が可能になる。

 さらに、ロボット化も進む。『人型ロボット(ヒューマノイド)との協働が始まる【第93回】』で触れた人型ロボットも、工場への導入が始まろうとしている。人型を含むロボットは自動車に続きIoTの拡大を実現する。EVのようにソフトウェアのダウンロード、指示やモニタリングが必要になるからだ。ネットワークを通じたコミュニケーションにより、ロボットの保守や柔軟な活動を指示するなど、つなげることによって可能性はさらに広がる。

 さまざまデバイスが接続され、コミュニケーション機能が強化できれば、収集できるデータも増える。IoTによって、人と人だけでなく、人とAI、機械とAIなど、さまざまなコミュケーションが実現する。