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生成AI普及で広がる人員削減、AIスキル人材育てる社会の変革が必要に【第96回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年9月22日

米Microsoftを始めテックジャイアンツが大幅な人員削減を発表している。背景には、コロナ禍後の特需に備えた人員増の削減や経営状況もあるが、生成AI(Artificial Intelligence:人工知能)技術の広がりの影響がある。生成AI技術は、さまざまな分野の業務の効率化や自動化、仕事そのものの改革、ビジネス改革などへと利用が広がっている。今後、仕事やビジネスにどんな変化をもたらすのか。業務の効率化、自動化、ソフトウェア開発の3つの分野で見てみたい。

 米Microsoftは1万5000人、米IBMは9000人、米McKinsey & Companyは5000人、米HPは2500人−−。いずれも各社が発表した人員削減数だ。他にも米Amazonや米JPMorgan Chaseなどが人員削減を発表している。

 米OpenAIの元メンバーが設立したAI(Artificial Intelligence:人工知能)技術のスタートアップである米Anthropicのダリオ・アモデイCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)は「5年以内にAIが初級ホワイトカラー職の50%を代替する可能性がある」と警告。米Ford Motorのジム・ファーリーCEOも「AIは米国のホワイトカラーの半分を置き換えることになるだろう」と発言している。

 世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)が1000の雇用主を対象に実施した調査のレポート『The Future of Jobs Report 2025(雇用の未来報告書2025)』(2025年1月)は、「AIが人々の仕事を再現できる」職種にあっては今後5年で「41%の企業が労働力を縮小する」と予測する。

定型業務に加えコンサルティング領域にも影響

 WEFのレポートは今後5年間に衰退していく役割として、管理アシスタントや役員秘書、印刷作業員、会計士や監査役、さらにはレジ係やチケット係などを挙げる。生成AIシステムやAIロボットによって「人々の仕事を再現」しやすい分野を皮切りに、多くの分野で労働力は減少していく。

 生成AI技術は既に、メールの下書きやアウトラインの作成、作成した資料の文章校正、議事録や報告書サマリーの作成、Q&A対応など、さまざまな業務に活用されている。

 三菱UFJ銀行は、生成AI技術の活用に積極的な企業の1社だ。社内文書のドラフト作成といった業務の効率化や、パーソナライズした顧客サービスの提供、企画のアイデア出し、新しい金融商品やサービスの開発など、新しいビジネス機会の創出にも広く活用しようとしている。そのゴールは、従業員1人当たり年間100時間、合計で年間22万時間の労働時間削減である。

 他にも、パナソニック コネクトやNEC、江崎グリコ、LINEヤフーなど、効率化・自動化の成果を挙げつつある企業も多い。最近も、かんぽ生命が、保険証書などの書類をAI技術で読み取り、保険金の査定事務へ活用すると発表した。

 定型作業や反復処理、ルールベースで処理可能な業務の自動化は進み、生成AIシステムに置き換えられていく。この動きは、管理職の一部業務や企画支援等新ビジネス開発にも及んでいく。

 コンサルティングも生成AI技術によるデータ収集や、分析の迅速化・自動化の影響を受けている。調査・データ収集、知識の集積や資料作成といった業務の自動化までが図れる分析ツールをサービスとして提供する会社も登場している。競争激化により“人月ビジネス”で売り上げを得てきたコンサルティングフィーモデルやコンサルティングのスキルのあり方に影響を与えている。

ソフトウェア開発ではコード生成だけでなく要件定義なども可能に

 ソフトウェア業界も生成AI技術によって大きな変革を迎えている。ソフトウェア開発における自動化やAIエージェントが、ソフトウェア開発のコード作成やレビューに活用されるなど広がりを見せ、開発環境におけるコーディングなどを支援するサービスが実用化している。

 例えば、米GitHubとOpenAIが共同開発したAI技術を搭載したコーディング支援ツール「GitHub Copilot」が、その1つ。プログラマーに対しGitHub Copilotは、コメントや既存のコード文脈を理解した上で、それに基づいたコードを提案したり生成したりしてくれる。

 GitHub Copilotのようなツール以外にも、生成AI技術は自然言語でのチャットにより、開発時の問題解決やアイデアの提供もできる。これらによりNTTデータは、既存言語から新たな開発言語によるソースコードを提案する処理の作業工数を7割削減できたとする。他にも日立製作所や富士通、NEC、LINEヤフーなどが、ソフトウェア開発における生成AIの活用事例を発表している。Microsoftのサティア・ナデラCEOは同社の一部プロジェクトでは「最大30%のコードがAIによって生成されている」と述べている。

 これらの効果が人員の削減につながる。Microsoftの2025年4~6月期の売上高は前年同期比18%増の764億4100万ドル、純利益は同24%増の272億3300万ドルという好決算だった。にも関わらず1万5000人の人員削減を発表した。

 生成AI技術はソフトウェア開発において、コーディングやテストに加え、要件定義やプロジェクトマネジメントといったシステム開発のあらゆる工程を支援するように進化している。それにより、低コストで迅速な開発が可能になり、ソフトウェアは「ファストファッション時代」を迎え、競争が激化すると予測されている。

 ソフトウェア企業の株価の下落や中小のソフトウェア企業の存続の議論も始めっている。SaaS(Software as a Service)のAIエージェントによる置換も始まっており「SaaSの死」とも呼ばれている。AIエージェントは、情報の取り出しや要約、複数の機能やサービスを横断できワークフローの自動化が可能だからだ。自然言語による操作がUI(User Interface)をも置換していく。