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- 大和敏彦のデジタル未来予測
変貌するIoT(Internet of Things)の世界【第98回】
要因2:5Gの普及による低遅延、多接続ネットワークの広がり
IoTの接続を支えるのがネットワークである。Wi-Fiや短距離通信のBluetoothも高速化が進んでいる。よりインパクトが大きいのが5Gだ。5GはWi-Fiに比べて、通信が安定している上に一つの基地局でカバーできるデバイス数も多い。
5Gの普及によって、低遅延な多接続が実現し、従来の通信インフラでは難しかったリアルタイム性や多接続・高精細データ処理が可能になり、IoTのユースケースに進化と拡張性をもたらす。1ミリ秒以下という超低遅延な通信は、自動運転や遠隔医療、ロボット制御などに対応できる。
接続可能性が広がることで、実世界のさまざまなデータを収集し、モニタリングや、それらのデータをクラウドなどにあるコンピューターで解析し、その結果を基に実世界へ働きかけることが可能になる。大規模で広範囲なIoTを使った実装が可能になり、接続数を増やせる。特に産業系のIIoT(Industrial IoT)によるDXが、さまざまな分野に広がっている。
5Gの実装には3つの方法がある。(1)モバイルキャリアが提供する「パブリック5G」、(2)通信事業者ではない企業や自治体が一部のエリアまたは建物・敷地内に専用の5Gネットワークを構築する「ローカル5G」、(3)モバイルキャリアの5G周波数帯を使ったマネージドサービスにより企業や自治体の敷地内に必要な帯域と容量の5Gネットワークを実現する「プライベート5G」である。
ローカル5Gは本格的な普及期を迎え、2028年には国内市場規模が672億円に達する(IDC Japan調べ)。プライベート5Gも製造業・医療・物流・公共安全などの分野で導入が加速している。
これらのインフラを使い製造業では、個別の歩留まり向上や検査の自動化や予知保全といった個別の仕組みから、スマートファクトリーによる全体最適化やリードタイム短縮、エネルギーの需給予測と価格最適化、交通シミュレーションによる渋滞・事故リスクの削減などへと広がっている。
このようにデバイスとクラウド、それらをつなぐネットワークによってDXは広がっていく。大規模なIoTシステムを構築し、その成果を最大化するためには、全体像を描きそれをカバーする全体的な仕組みが必要になる。
その有効策の1つがデジタルツインである。全体最適の実現に向けては、プロセスの設計と共に、デジタルツインを使ったシミュレーションを実施し、完成後はモニタリングによって環境の変化にすぐに対応できる必要がある。リアルタイム制御や予測、最適化、意思決定支援を求める環境では、デジタルツインが不可欠な基盤技術になりつつある。
要因3:生成AIの進化による意思決定や自動化への応用の広がり
生成AI技術の進化によりIoTの高機能化が進んでいる。Metaのメガネ型端末のように、デバイスがコネクティッドになり、センサーを搭載し、リアルタイムなデータ収集が可能になった。
このデバイスをAI機能と連携することで可能性は格段に高まる。生成AI技術によってマルチモーダルな情報処理ができ、翻訳や画像診断などをリアルタイムに処理し、その結果をデバイスに返すこともできる。予防保全や自動制御など高度な活用も広がっている。
ネットワークと生成AI技術の進化により、IoTはデータ収集ツールから、意思決定支援や体験設計、自律判断ツールへと進化する。そこでは自動運転やリアルタイム性を持ったUX(User Experience:顧客体験)の実現が可能になる。
またエッジコンピューティングと組み合わされて、リアルタイム性を確保しつつネットワーク負荷を下げる設計も広がっている。自動化に関しては、ロボット制御への適用や会話能力などだけでなく、生成AI技術を使ったトレーニングなども重要な分野になってきている。
全体構想と設計、そしてセキュリティ対策が重要に
さまざまなデバイスとネットワークの進化によって、コネクティッドの世界が広がっていく。生成AI技術が感覚器や手足を与えるIoTデバイスを使用する分野は今後も広がり、生活や社会を変えていく。それらを統合することで業務や社会の変革を実現できる。
そのためには、全体構想と設計が重要である。それぞれを部分最適として使っていくだけでなく、全体最適を考え統合していく必要がある。IoTデバイス、ネットワーク、生成AIの各技術を、どう使えるかを理解し、組み合わせて統合した最適な仕組みを考えなければならない。
ただ『サイバー攻撃が狙うIoT機器の現状と、その活用が引き起こす変革【第79回】』に述べたように、サイバー攻撃対策などのセキュリティ対策は重要である。IoT機器へのサイバー攻撃は、そのIoT機器だけでなく、IoT機器が接続している社内ネットワークへ侵入するための入口にされるケースもある。今後のIoTシステムの設計にはセキュリティ技術は不可欠だ。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。