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自律型のエージェンティックAIを目指すAIエージェントの姿【第99回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年12月22日

AIエージェントのためのエコシステムが必要に

 AIエージェントが広がると、AIシステムのインフラになるLLMや開発環境などのプラットフォーム、AIエージェントを検索・活用を広げるマーケットプレイスなど、AIエージェントのためのエコシステムが必要になる。

 AIエージェントプラットフォームは、AIエージェントの開発・実行環境をクラウド上で提供する。Amazon.comやMicrosoft、Googleなどの米大手テクノロジー企業は「AWS(Amazon Web Services)」「Microsoft Azure」「Google Cloud」などのクラウドプラットフォームを通じてAIエージェントのためのインフラを提供する。AWSの「Amazon Bedrock Agents」と「同AgentCore」、Microsoftの「Agent 365」、Googleの「Google Agentspace」と「同Antigravity」などだ。

 AIエージェントの一種である「Webエージェント」のプラットフォームを提供する企業も登場している。例えば米TinyFishは、自社や競合のWebサイトから情報を収集し、目的に応じたワークフローを自動的に実行するプラットフォームを提供する。

 TinyFishが提供する小売り・旅行業界向けのWebエージェントは、対象のWebを動き回り、ホテルの価格や在庫をモニタリングし、価格の監視・追跡、プロモーションの分析、在庫状況の提供を自動化する。情報へのアクセスが難しかった情報にもアクセスし、可視化されていなかったWeb資産の活用を可能にする。

 AIエージェントプラットフォームを選ぶ基準としては、以下のようなものが挙げられる。

使用しているLLM :エージェントで使われるタスクの分解・計画・自己修正などの機能には推論がキーになる。複数ステップの推論や論理的一貫性、タスクの保持と交信、エラー時の自己修正能力を実現できなければならない。LLMの永続性も見る必要がある
ツール実行能力 :ツールによって、コードやAPI(Application Programming Interface)を実行したり、検索や外部サービスを呼び出したりができなければならない
コード生成能力 :提案コードの一貫性、自己修正の可能性、バグの少なさなどが必要になる
実行速度 :複数ステップを連続して実行するため、実行速度が重要になる
コスト :APIを大量に呼び出すことがあるため、コスト構造を理解しコストを抑えることも重要である。
マルチモーダル能力 :画像解析やPDF解析、音声の理解・指示が必要な場合は、マルチモーダル能力が不可欠になる
オープンかクローズドか :オープンモデルは、コストが安かったりカスタマイズが可能だったりする。一方のクローズドモデルは、動作が安定し推論などの機能が優れたものが多い

AIエージェント同士の協業を促す標準化も進む

 今後は、AIエージェント同士が協力し、より複雑で大規模な目標達成を目指す「エージェンティックAI」の世界を目指すことになる。複数のAIエージェントの協業例としては、ソフトウェア開発におけるコーディングやテスト、プラジェクト管理の統合や、カスタマーサポートにおける顧客1人ひとりの要望の応じた情報の提案、およびそのためのメールやチャットの作成などが挙げられる。

 協業に向けては相互接続の仕組みも重要になる。米OpenAIは相互接続のための規格「ACP(Agentic Commerce Protocol)」を、米AnthropicはAIエージェントが外部ツールやデータを使うための標準企画「MCP(Model Context Protocol)」を、Googleは、AIエージェント間が相互連携できる「A2A(Agent to Agent)」を、それぞれオープンソースとして提供している。

 AIエージェントやエージェンティックAIのゴールは「自律型エージェント」の実現・普及である。環境を判断し、それに対応した行動を自律的に判断し、実行する。その実現には懐疑的な見方もあるが、影響の少ない分野から実現していくはずだ。従来システムでは実現が難しかった分野でも、人による業務の自動化や補強、UX(User Experience:顧客体験)の改善に役立てられ、製造や金融、医療、教育など、さまざまな分野に広がるであろう。

 AIエージェントのようなシステムやアプリケーションの自律化が進む世界では、AI技術による意思決定の根拠といった透明性や、人からの信頼性、説明可能性が求められる。さらに安全に利用するためには、ガバナンスと制御を効かせ、誤動作や暴走を防ぐ仕組みが必要になる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。