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自律型のエージェンティックAIを目指すAIエージェントの姿【第99回】

生成AI(人工知能)技術の急速な進展を受けて、そのユースケースを広げているのがAIエージェントである。利用者の要求に応え、さまざまな業務におけるタスクを自動で実行、または利用者の作業を支援する。その先には複数のAIエージェントが連携するエージェンティックAIへの発展が期待されている。今回は、AIエージェントを中心に、最新動向を見てみたい。
『生成AI普及で広がる人員削減、AIスキル人材育てる社会の変革が必要に【第96回】』で、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)技術が検索エンジンビジネスに影響を与え、多くのビジネスを変えていくと指摘した。
RAG技術を使えば、学習情報に加え、最新情報にアクセスして情報を取得できる。商品価格や在庫の動きなどの最新情報を検索できる。これにより、顧客の興味や好みに合う商品を提示する「RAGコマース」のようなビジネスも考えられる。整理されていない大量のデータを有効活用し、新しい価値を生み出せるRAG技術は今後もユースケースを広げながら、新しいビジネスを生み社会を変えていくだろう。
AIエージェントへの投資やスタットアップ設立も盛ん
RAG技術に並びユースケースを広げているのが「AI(Artificial Intelligent:人工知能)エージェント」である。LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を中核に推論・計画を実行し、記憶の活用や外部ツール、他のAIエージェントとも連携しながら、複数のタスクを自律的に実行するように設計されたシステムだ。
例えば、米Microsoftが提供する「Copilot」は「Word」や「Excel」「PowerPoint」といった同社オフィス製品に搭載され、利用者の指示に従って、アイデア出しや文章の下書きや要約など、文章の作成や編集をAI技術により支援する。
AIエージェントの導入により自動化は、さらに進み、対話形式で必要な文書の要望や読者層、重視する点やデザインの要点を伝えれば、企業内やインターネット上の情報を基に各種資料を自動的に作成する。従来の文書作成の支援から自動作成への進化だ。このようにAIエージェントは要求者の要望に従い複数タスクを自律的に判断し実行できる。
AIエージェントの利用が進行している代表的な分野には次のようなケースがある。
● カスタマーサポート :顧客の問い合わせ対応、サポートの自動化を実行する。カスタマーサポートのAIエージェント化は企業の優先事項になっている。米CB Insightsの2025年の調査では、82%が「今後12カ月以内にカスタマーサポートで活用する」と回答している。チャットボットからAIエージェントへの変換が進んでいる
● バックオフィス・事務作業 :書類処理、データ入力、請求処理、スケジュール調整といった定型(ルーティン)業務の自動化に使われている
● 開発者支援 :ソフトウェア開発におけるコード生成やテストを自動化するAIエージェントの利用が広がっている。
● 製造 :予知保全、製造工程・生産プロセスの制御、監視の実施、物の移動や組み立て、サプライチェーンの管理などで使われている
● 金融 :顧客サービスの自動化、投資分析、リスク管理、決済処理などの分野での利用例が登場してきている
● 医療 :診断支援、医療文書作成、研究補助などの分野で使われている
このように、さまざまな分野でAIエージェントの実導入・試験導入が進んでいる。例えばソフトバンクグループは、 グループ全体で10億のAIエージェントを作ると発表している。
スタートアップの設立も盛んだ。2023年以降、500以上のスタートアップが設立されている(CB Insights調べ)。カスタマーサポートやソフトウェア開発環境では商用化も進む。米Anysphereは、AIコーディングの「Cursor」というツールを提供しており、エンジニアが対話形式で指示を伝えるとソースコードを生成する。企業価値は293億ドルに達している(同)という。
AIエージェントは人とシステムの関係も変える
AIエージェントは、システム開発の領域でも、次のような変革を起こそうとしている。
開発の変革
AIエージェントは、自然言語で目的を理解し、実行順序を計画しシステムを開発する。コードやUI(User Interface)をAIエージェントが提案し、人はレビューや意思決定を担うのが役割になる。実行時には、結果を確認し上手くいかなかった場合は修正する機能を持つ。人とAIシステムの役割が変わり、開発チームの構成や必要なスキルも変わる。
「変化に対応するソフトウェア」への改革
既存ソフトウェアは、動きを想定し、そのロジックをシステム化する「固定ロジック」によるシステム化だった。AIエージェントでは、情報を基に状況を判断し「どんなタスクを、どう実行するか」を実行時に判断する「動的タスク」の実行が可能なシステムを構築できる。
運用・保守の変革
運用・保守も変化する。AIエージェントは、自己学習や自己修正の機能を持つ。実行ログや利用者行動を次の計画に反映させたり、失敗したタスクを自動的に再試行・修正したりする。実行ログや利用者行動の取得と、その分析が重要になる。
人とシステムの相互作用の実現
自然言語でのやり取りによって要望を伝え、AIシステムが最適な手順で開発や処理を実行する。システムは人とAIとの“静的な”関係は、状況に応じて変化する“動的な”関係に変わり、人とシステムとの相互作用を実現する。システムが自律的に動くことで、人の役割は、その監視や方向性の指示などになり、人とシステムの関係も変わる。