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- 大和敏彦のデジタル未来予測
医療に見るAIの進化と変革【第103回】
変革4:個別化医療
予測医療の発達は、患者ごとの最適な健康維持や疾患に対する最適な治療法の提案につながる。AI技術を使ったデータ解析によって、個人の発病リスクを予測し、最適な治療の提案につなげる個別化医療を実現する。遺伝子解析による、がんの発症リスクや治療法のリスクを予測し、個々人に最適な治療や薬剤の選択を提案できる。
個人のウェアラブルデバイスやスマホからデータを取得し、それらをモニターしたり解析したりすることで、早期診断や早期検知につなげる。個人単位の予測医学を目指した個別化医療は、治療中心だった医療を病気の予測や予防が中心の対策へと変えていく。
変革5:創薬
AI技術により膨大なデータを処理できるようになり、その能力を活用した医薬品開発の迅速化・効率化が進んでいる。医薬品の候補になる分子の探索や設計、治療の標的の探索などだ。例えば米Insilico Medicineは「AIで創薬プロセス全体を自動化し、薬の開発期間とコストを劇的に短縮する」を目標に掲げ、前臨床段階をこれまでの5〜7年から数カ月〜1年に短縮することを目指している。
分子探索に関しては、米Google DeepMindが開発した「AlphaFold」は疾患の解明や新薬の開発に役立つ3D(3次元)のたんぱく質構造を予測し、2億以上のタンパク質構造を予測した。AI技術を活用した創薬技術は、治療に必要な新薬の開発を迅速にし、そこから生まれた新薬を使った治療が始まる。
変革6:仮想ホスピタルでの医師・看護師のトレーニング
AI技術は、診断や治療、予測、新薬の開発など、さまざまな変革を起こそうとしている。さらに今後は、個々の領域での活用にとどまらず、それらを組み合わせた仮想病院を実現しようとする動きもある。
その一例が、中国の精華大学智能産業研究所を中心に開発が進む仮想病院システム「Agent Hospital(エージェント病院)」である。「医師・看護師・患者」を仮想環境に再現する、診療や医療教育を行う新しい医療AIプラットフォームである。
Agent Hospitalの医者、看護師、患者は、いずれもLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)で学習した自律コミュニケーションが可能なAIエージェントである。21の診療科に42人のAI医師が準備されており、収集が難しい医療データを蓄積しながら、AI医師やAI看護師のトレーニング環境を準備する。
患者データは50万人以上の仮想患者に導入され、トリアージや受付、診察、検査、診断、処方、リハビリテーション、フォローアップまでの全段階をシミュレーションし、AI医師が経験を積みながら自己進化できる仕組みになっている。
AIエージェントを使った自律性を持つプラットフォームを使うことで、プラットフォーム自身の知識や経験を向上させることも行われている。現在、外来テストや臨床テストを行うステップに入っている。
変革7:医療業務
診断記録や医療文書作成、保険請求処理などにAI技術やAI音声処理による改善が進む。受信予約や受付では、データの有効活用やコミュニケーションの改善への活用が進む。管理の効率改善やコスト削減につながっており、組織変更やワークフローの改善にも取り組めば、より大きな変革につながる。
“AIネイティブ”な社会に向けた医療の進化が続く
AI技術が日常生活や社会のあらゆる面に深く浸透し、人が自然にAIを活用する“AIネイティブ”な社会が現実味を帯びてきている。AI技術を使った医療現場の変革は今後、ますます、その速度を高め、その技術を使った医療の進化と広がりが続いていく。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。