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近づくAIネイティブ時代、フィジカルAIや自律ネットワークへの道程【第104回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2026年5月18日

「AI(人工知能)ネイティブ化」への準備が進んでいる。そうした中で、フィジカルAIの動向を2026年1月開催の世界最大級のテクノロジー見本市「CES(Consumer Electronics Show)」(米ラスベガス)から、それらを支える通信インフラのAI化の動きを2026年3月に開催された世界最大級のモバイル関連見本市「WMC(World Mobile Congress)」(スペイン・バルセロナ)から、それぞれ見てみたい。

 「AI(人工知能)ネイティブ」とは、日常や社会のあらゆる面でAI技術が深く浸透し、人が自然にAI技術を活用できることを指す。データが重視されるコネクティッドな環境で、AI環境とAI技術を搭載した、さまざまな機器によって、生活や社会がAI技術を前提に変化していく。

CES 2026のテーマは「AI Everywhere」と「AI Everything」

 米ラスベガスで毎年1月に開かれる「CES「(Consumer Electronics Show)」は、世界最大級のテクノロジー関連の見本市である。もともとは家電やゲーム機が展示の中心だった。だが現在は、ロボットや自動車、スマートホーム、デジタルサービスといった最先端技術を活用した機器やサービスに焦点が移っている。

 2026年のテーマは「AI Everywhere」「AI Everything」である。ロボットや自動車、家電などにAI技術が組み込まれ、生活へのAIシステムの浸透やAIシステムによる生活の進化に焦点が当たる。展示内容も、単純な動作にとどまらず、AIシステムが判断し、行動計画を立て、動作につなげる動きや、LLM(large Language Model:大規模言語モデル)による作業分割や意思決定のデモも見られた。

 AI技術を物理的な空間に広げる「フィジカルAI」の展示も多かった。フィジカルAIは、AI技術により空間やモノなどの物理世界を理解し、サイバー空間での意思決定や動きを物理世界で自律的に展開する。応用例としては、自動運転車やヒューマノイド(人型ロボット)が挙げられる。

 フィジカルAIの動きを「部品を検査して、次の工程に送る」という作業を実行するロボットのケースで見ると、次のようになる。

(1)指示をLLMによってタスクに分解する
(2)部品をつかむために画像認識によって部品位置を認識する
(3)認識した位置情報を使って部品をつかみ、検査の位置に移動させる。つかむ力、動かす方向などは学習したLLMを参照する
(4)検査が終われば次の工程に送る

 このようにAI技術によって、支持内容の理解やタスク分解、実際の動作のための方向や力をロボットの動作として実行する。ロボットが動く時の常識にも LLMが重要な役割を果たす。

自動運転車やヒューマノイドが社会を変えていく

 フィジカルAIの技術は社会を大きく変える可能性がある。例えば米Uber Technologiesのような企業は、人による運転サービスの提供会社から、AI車両を運用する移動インフラの提供会社へと変貌できる。ドライバーを自動運転車に変えることで人件費が不要になり、クルマの稼働時間が増え事故も減る。

 そこでの仕事は、AI車両の保守・運用、安全監視など自動運転車の運用ビジネスに変わり、AI技術が動かす移動インフラの世界になる。交通が最適化され、移動の費用が下がり、利便性が向上すると、車を所有する必要性が大きく下がる可能性もある。そうなれば、都市の構造や働き方、物流、商業のあり方までを大きく変える動きにつながっていく。

 自動運転車同様に、社会を大きく変える可能性があるのがヒューマノイド(人型ロボット)だ。人型ロボットは、人の体を模すことで、既存の環境や設備の中で活用できる。CESでは、動作や生活タスク(荷物運搬、洗濯物を畳む、人の動きの模倣、ダンス・楽器演奏など)がデモンストレーションされた。

 人型ロボットの運動能力と耐久性は急速に向上している。中国のオナーが開発するランニングロボットは、ハーフマラソンで人の世界記録を上回る50秒26という記録を出した。秒速10メートルで走行できるロボットや前方宙返りができるロボットも開発されており、ハードウェア性能とアルゴリズムは向上している。

 これらにAI技術を組み合わせることで、人が不足する分野や、危険な作業、長時間労働の代替が可能になる。工場のほか、介護・見守り・日常支援などから活用が広がるだろう。

 ほかにも、感情を持つ“AIペット”のようなロボットや、スマートホームや家電のAI化による日常タスクの自律的な実行なども発表されている。スマートホームにおける健康指標や睡眠測定による予防医学の推進は、病院中心だった医療を、家庭でのAI技術による24時間体制の予防的な健康サポートへと変化する。

 こうしたフィジカルAIの実現には、センサーやアクチュエーターといったロボットのためのハードウェアに加え、以下の技術が必要になる。

エッジAI : LLMや画像・音声認識、空間理解、触覚などのマルチモ-ダル処理を実行するためのデバイス上(エッジ側)のAI実行環境
クラウド連携 :遠隔監視や、ログ収集、OTA(Over the Air:ネットワーク経由のソフトウェアアップデート)、さらには複雑な作業のシミュレーションやモニタリングのためのデジタルツインの実行環境
セキュリティ :運用や安全を確保するためのセキュリティ技術。自社またはパートナリングで備える