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医療に見るAIの進化と変革【第103回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2026年4月20日

AI(人工知能)技術の適用効果の議論が活発になっている。「期待ほど成果が出ていない」という声もある。だが実際には、ソフトウェア開発や製造最適化、検索・リコメンデーション、自動運転、翻訳などで劇的な成果を生んでいたり、写真修正や検索エンジン、クレジットカードの不正検知など目立たない領域で活用が進んでいたりする。今回は、そうした活用領域の中で、幅広い分野で利用され成果を生んでいる医療分野でのAI技術の活用を考えてみたい。

 デジタルデバイスやセンサーの浸透により、さまざまなデータ収集が可能になり、情報へのアクセスも容易になった。それらの大量のデータが非構造化データであってもAI(人工知能)技術により解析が可能になっており、医療分野でのAI技術の活用への期待が高まっている。

 一方で、医療分野におけるAI(人工知能)技術の活用においては、さまざまな課題がある。AI活用の規制、大量の正確なデータの収集、AIモデルの構築、間違いがあった時の責任の明確化や対処法などなどだ。活用にあたって医療規制の改革が必要なケースもある。

 ただ既に、こうした課題を1つひとつ潰しながら、AI技術は医療分野のさまざまな領域で活用され始めており、それぞれに変革を起こしている。

変革1:診断と治療の品質向上

 診断分野では、学習したAIシステムを使って画像やデータを解析し診断の補助に利用されている。AI技術によって非構造化データである画像の処理や分析が可能になってきたからだ。対象画像には、エコーや顕微鏡、内視鏡映像、血管造影、手術室での映像、皮膚などの患部映像の医療画像、放射線医療のX線、CTやMRIなどがある。音声データや手書き記録の処理や分析も可能になり、画像、音声、手書き記録を構造化データと共に扱えるようになっている。

 病理画像から症状を見つけ出したり、類似の患者の成功例を元に治療を類推したりすることが可能になり、診断補助や異常検知に広く使えるようになった。AIシステムを診断補助に使うことで、診断精度の向上や診断時間の短縮、医師の見落としの防止が可能になる。診断の優先順位付けもでき、コロナ禍では、重症度や緊急度に応じて、治療や搬送の優先順位付け(トリアージ)に活用された。

 AI技術を使いX線、CTやMRIの病理画像から微小な兆候を見つけることで、ガンや眼科疾患などの早期発見や異常検知に役立てるケースも出ている。診断の速度や精度は向上しており、例えば米ミシガン大学のAIシステム「Prima」は、脳のMRI画像を数秒で解析し、50種類以上の神経疾患を最大97.5%の精度で診断できるという。

 医療の発達やデバイスの進化によって情報量は増える一方だ。それらの情報を有効に使って、正しい診断をするためにAIシステムによる診断補助は重要性を増す。重篤な症状の見落としを防いだり、適切な分析や処置の誤りを防いだりと、AI技術を使った研究が広がるに連れ、AI診断の重要性は、ますます高くなる。

変革2:医療の均質化・地域格差の是正

 AI技術を診断と治療補助に活用することは、医師によるスキルのばらつきを抑えた均質な医療の提供にもつながる。各病院でAI診断ができれば医療の品質向上にもつながり、高いスキルを持つ医師と同様の治療を受けられるようになる。

 AI技術を使うことで、画像やデータによる診断が可能になる。リモート環境にも適用でき、遠隔での医師のサポートと組み合わせれば、地方における医師不足を補うこともできる。医師不足を解消し診察・診断ができるようになれば、地域格差の是正にも役立てられる。

 手術支援ロボットの分野でもAI技術の適用が進んでいる。手術支援ロボットは、外科医が遠隔操作で手術をするための装置である。手術支援ロボットでも、AI技術を使った自律化の実験が進んでいる。自律化により手術精度の向上や標準化を図れば、遠隔地での手術支援ロボットによる手術が可能になる。

変革3:予防医療の強化

 実際の診断や治療だけでなく、より大きな医療改革も進んでいる。データの蓄積とAI技術による膨大なデータの解析は、医療を予防医学へと進化させている。予防医学は、病気の可能性を予測して対処することで、病気を未然に防ぎ、病気になりにくい体を作り、その発症を防ぐ対策だ。そこでは、健診データやウェアラブル機器によるヘルスケアデータの収集・蓄積や解析が重要である。

 「ゲノム(遺伝子)医療」と呼ばれるゲノムの配列を分析し患者のガンなどの疾患の発病を予測することも可能になっている。ゲノムデータを解析することによって、糖尿病や心疾患、ガンなどのリスクが高い患者を特定でき、患者ごとに最適な治療法や対処法を提案できる。

 副作用を予測すれば、最適な薬剤や治療の選択も可能になる。AI技術を使い遺伝学および生物学に関する知見を深掘り、より効果的な治療法を見つけ出そうという動きも盛んである。

 例えば、ソフトバンクが提携している米Tempus AI(旧Tempus Labs)は多様なガン患者を分析し、ガンの発病リスクを予測する研究を進めている。予測医療の発展は、疾患の発症メカニズムを解明し、より優れた診断・治療戦略を見つけ出し、病気の予防、健康寿命の延伸、医療費削減に貢献する。