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近づくAIネイティブ時代、フィジカルAIや自律ネットワークへの道程【第104回】
WMC 2026のテーマは「The IQ Era」
スペイン・バルセロナで毎年開かれる「WMC(World Mobile Congress)」は世界最大級のモバイル関連見本市である。2026年のテーマは「The IQ Era」である。AI技術と通信が融合し、ネットワークそのものが知能を持つインフラへと進化するAIネイティブ化を示しており、低遅延で高信頼性のあるAIネットワークが構築できる。それは、さまざまな機器のAI化を支えるインフラになる。
通信インフラがソフトウェア化することで、AI機能の組み込みが可能になり、自律的に運用可能なネットワークへと進化する。モバイル通信業者の業界団体であるGSMA(Global System for Mobile Communication)が発表した通信事業者向けオープンソリューション「Open Telco AI」は、AIを5G/6Gネットワークの中核に導入し、運用や自律性を高めることを目指している。
ネットワークのAI化により、トラフィック最適化のための自動判断やネットワークの自律運用へと進んでいく。AI技術により未使用部分の電源を落としたり、出力電圧を調整したりすることで電力の削減も実現できる。単なる通信経路としてだけでなくネットワーク接続点にコンピューティング能力を装備する動きも進む。
例えばソフトバンクは、基地局の制御装置をソフトウェアによって仮想化することで、そのコンピューティングパワーを通信とAI処理の両方に使う。余剰のコンピューターパワーを通信以外の処理に利用することを目指し、AI環境への高速アクセスと、そこでの消費電力全体の削減を図りたい考えだ。
米国では、イーロン・マスク氏が衛星通信ネットワークと100万機の人工衛星を使う「宇宙AIデータセンター構想」を唱えている。宇宙のデータセンターには、冷却面や太陽光エネルギーの使用というメリットがある。通信とAIの融合によって、AI技術を高速に、よりさまざまな場所で利用することが容易になる。
MWC2026では、AIアプリケーションからモバイル端末のOS(基本ソフトウェア)レベルまでをAI化したモバイル端末用AIエージェントも発表された。エージェント化により、カレンダーの招待状作成や、アプリの起動、ドキュメントの分析、情報の検索などを能動的に処理する「AIコンパニオン」として活用できる。
音声やカメラ画像をクラウド上の生成AIシステムに送り、翻訳や対話、情報検索などを実行するAI専用端末も生まれている。インフラやデバイスにもAI機能を搭載することで自律的な利用環境やAIエージェントが動く環境ができようとしている。
AIアプリ/サービスを提供するためのプラットフォーム化も
企業のAIサービス活用を加速化するためのプラットフォームの動きも出てきている。米NVIDIAの「NIM(NVIDIA Inference Microservice)」が、その一例だ。
NIMは、NVIDIA が提供する最適化済みAI推論マイクロサービスの総称で、GPU(Graphic Processing Unit:画像処理装置) に最適化された AI モデルを Docker コンテナとして即座にAPI(Application Programming Interface) 化して利用できるようにする仕組みである。AIモデルと推論エンジンや依存環境を組み合わせたマイクロサービスをAPIとして構築できる。NVIDIAのGPU上で、高速・安定・スケーラブルに動作する。
AIモデルとしては以下などがコンテナとして用意されている。自前で構築する手間を減らし運用も容易になる。
●テキストチャット、要約・翻訳機能などを提供するLLM
●音声認識や音声合成機能を提供する音声系
●画像とテキスト機能を提供する画像/マルチモーダル系
このようなAIサービスを構築するためのプラットフォームにより、インフラや端末、フィジカルAI機器や開発プラットフォームなど、AIネイティブ化の動きは加速する。
米ガートナーは2026年の戦略的テクノロジートレンドとして「AI前提のハイパーコネクティッド世界で、AIネイティブ化が企業競争力の前提になる」と指摘している。AI技術を活用するためには、推論の正確性や確かさが重要になる。AIシステムの開発や活用においてはルールや規制の制定や順守が重要になる。
AI技術を活用する際は、利便性の改善だけでなく、AI技術による変革を想定することが重要だ。インフラや、さまざまなところでAIシステムの自律性が実現すれば、それらを統合して最適化する課題も生まれてくる。AIネイティブ化の成功は、AI技術の使い方にかかっている。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。