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AIエージェントの自律化で加速する学習中心から推論中心の流れ【第105回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2026年6月22日

AI(人工知能)技術の利用が急拡大し、それを支えるデータセンターやクラウドに大きな変化が起きている。需要の一翼を占めるのがAIエージェントだ。AIエージェントは、利用者の指示に従うツールから、自ら考えて行動する自律システムに変わろうとしている。自律システムでは、思考の中核をなす推論の重要性が高まる。AIエージェントの広がりが与える影響を考えてみたい。

 2022年の「ChatGPT」(米OpenAI製)の発表以降、生成AI(人工知能)システムがクラウド収益増加の半分以上を占める。米Amazon.comや米Microsoft、米GoogleなどのハイパークラウドプロバイダーにおいてもGPU(Graphic Processing Unit:画像処理装置)の需要がクラウド成長の主要ドライバーになっている。

 企業のクラウドインフラストラクチャー・サービスへの支出額は、2026年第 1四半期に前年同期から350億ドル以上増加し1290億ドルに達した。前年同期比の成長は9四半期連続で、その上昇率は35%に達している(米Synergy Research Group調べ)。そこではAmazon、Microsoft、Googleがそれぞれ28%、21%、14%のシェアを持つ(同)。

 一方、GPUaaS(GPU-as-a-Service)や生成型AIプラットフォーム、高密度GPUサービスなど、AI処理に向けた高性能なGPUを提供する専用データセンターも成長している。『AIが加速するクラウドの高機能化と知能化【第100回】』で紹介した「ネオクラウド」である。

 ネオクラウド業界の売り上げは、2025年第4四半期に前年同期比223%増の90億ドルに達した。2025年通年には250億ドルを超え、2031年までに4000億ドルに迫ると予測されている(米Synergy調べ)。代表的なネオクラウドプロバイダーは、米CoreWeaveや米Lambda Lab、米Crusoe、オランダのNebius などだ。CoreWeaveは、四半期ごとに15億ドル以上のクラウド収益を上げており、クラウドプロバイダー全体の上位10社に食い込んでいる(同)。

 GPU活用の伸びは、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の学習に使われることで増加してきた。だが、そこにも変化が表れてきた。学習のために大量のGPUが使われるケースから、学習したLLMや機械学習モデルを使う自律的AIシステムのプラットフォームとしてのGPUの使い方が増えてきている。“AIネイティブ”として、人の介入なしに複雑なタスクを常時・リアルタイムで実行するAIシステムの実行基盤としてのGPUの活用だ。

 中でも急成長しているのがAIエージェントだ。さまざまな分野で活用が急増しており、その市場規模は、現在の98億ドルからCAGR(年平均成長率)36.55%で成長し、2035年には2209億米ドルに達すると推定されている(グローバルインフォーメーション調べ)。

 AIエージェントはすでに変革の成果を上げている。例えば、米ウォルマートは「買い物エージェント」を実用化し、顧客に合わせた商品提案の最適化や買い物機会の拡大を図っている。パーソナライズした商品補充や、より正確なお薦め情報の提供によって、これまでのリコメンデーション方式を上回る売り上げを上げている。

AIエージェントの自律化では推論が重要に

 AIエージェントは、目的や指示を理解し、データや外部ツールを観察しながら、分析・検討し、自律的に計画・行動するというループを繰り返している。ベースになるLLMや機械学習モデルは、学習によって構築・強化する必要がある。具体的には、データを用いてモデルの中の重みづけを変えながらモデルの精度を高めていく。

 AIエージェントが今、自ら考えて行動する自律システムへと進化しようとしている。そこでは、思考の中核をなす推論の重要性が高まっていく。

 LLMは今後、知識の質や文脈理解の深さ、問題の抽象化レベルを高めながら、応用分野を広げていくが、そこには限界がある。学習したLLMのみによる応答では、回答時に次の単語を統計的な推測に基づいて導き出しており、回答における思考の深さが足りなかったり、誤りの可能性が生じたりする点だ。

 これに対し推論では、LLMの働きに加え、質問を個々のステップに分解し、思考の連鎖を使って、より正確な回答を導き出す。推論機能では次のようなことが可能になる。

●複雑な問題を段階的に処理する
●専門分野での高度な判断を実行する
●エージェントを束ねて高度なタスクを実行する

 学習によるLLMの強化と推論エンジンを組み合わせれば、高度な思考が実現でき、AI技術の活用分野は、ますます増えていく。不確実なことの判断や、専門性が必要な問題解決、社会問題などへの応用などだ。予測やタスクの解決をリアルタイムに実行できれば、以下のようなことが可能になる。

●RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)型で情報検索する際に、検索結果の表示だけでなく、文脈の理解や根拠を示す
●自動的な業務処理において、環境を理解し何をするかを考えられる
●文章生成において、文章のひな型を提示するだけでなく、文脈を理解して文章の提案をする
●意思決定の支援において、実行計画のシナリオ作成だけでなく、決定の一貫性をチェックする

 これらは仕事や仕組みの変革をもたらす。例えば、コード生成・デバック、数学・科学的問題解決、医療・法律などの文書分析、複数ステップのタスク自動化、意思決定支援、研究加速、生徒の理解度に合わせた教育、製造・設計や設計の不具合発見などである。