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- 大和敏彦のデジタル未来予測
製造業へのロボット/AI活用で躍進する中国【第106回】
中国政府は計画的にロボット産業を育成
このようにAI技術の進化がロボット開発の加速をしている。加えて中国では、ロボット産業を育成するために取り組んできたことがある。(1)国家戦略、(2)サプライチェーンの増強、(3)使用目的の明確化である。
国家政策
製造業の強化政策である「中国製造2025」において、ロボットを重要分野に位置付けた。そのうえでロボット政策である「ロボット+応用行動実施方針」では、工業・農業・物流・医療といった10大分野への導入推進を掲げた。その目標は、「2025年に量産化し、産業体系を確立する」ことだ。
具体的には、2025年までに産業用ロボットの国産化率を70%、基幹部品生産の国産化率を80%に高め、サービスロボットの産業化と普及を実現する。政府の支援の下、目標に向かって官民が方向性を合わせて推進してきた。
サプライチェーンの増強
センサーやバッテリー、サーボモーターや制御装置の開発を強化する。AI技術などロボットの開発や大量生産の実現に必要な基幹部品や技術は、EV(Electric Vehicle:電気自動車)やスマートフォンの開発・製造で蓄積した技術を使える。これら技術を国産化することで、国内にサプライチェーンを構築できるようになってきた。
サプライチェーンの内製化により、競争力を強化し、ロボット業界に次々と参入した。人型ロボットに関しては、全世界にある関連企業の半分以上が中国に存在し、2025年末には200社を越えた。中国のロボット産業は単なる組み立て・導入から、技術・部品・完成機・統合システムまでを含む総合的な産業基盤へと進化している。
使用目的の明確化
中国でも人口減少が始まっている。2050年には12億6000万人程度にまで減少し、60歳以上が約40%を占めると予測されている(国連調べ)。今後の人手不足も予測される。製造業では既に人手不足は始まっており、中でも溶接分野の人手不足が顕著だ。高圧の電気を使う危険な職場であることが原因だが、非標準品の溶接分野での人手不足を補うためにロボットの活用が始まっている。
このように人が集まらない分野でもロボットによる人手不足解決が期待できる。高齢化に伴い、製造業以外にも、建設や物流、介護・高齢者ケアの分野では熟練労働者の不足が見込まれており、ロボットの活用が期待されている。
工場全体を視野に入れた製造改革が最終目標
中国のロボット産業は、需要増とテクノロジーの進化、バリューチェーンやエコシステムの強化、さらに、それらを後押しする国家戦略により立ち上がっている。こうしたロボット化やロボットの展開は世界中で進んでいく。
ロボットは生産性を高めるために使われる。だが最終目的は、製造改革を進めることである。そのためには、優れたロボットを工場で、どう活用するかという全体像を考えなければならない。
例えば中国UBTECHは、AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)と人型ロボットを活用した無人物流ソリューションを開発した。ピッキングや搬送を自動化する。現在は、自動車検査や塗装工程における検査を、AGVと人型ロボットで自動実行することを目指している。
世界最大の車載電池メーカーである中国CATLは2025年12月、河南省洛陽市にある工場で、人型ロボットが主に作業するバッテリーパックの生産ラインを稼働させた。数百ボルトの高電圧が流れるテストプラグをバッテリーに接続するという危険が伴う作業を人型ロボットが担うことで、正確性や熟練作業員と同等のスピードを実現して生産性を高めると同時に、危険作業から人を解放する。
製造現場では、ロボットだけでなくAIエージェントの導入も進んでいる。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の仕組みを使い、センサーや画像、音声から現場の状況を判断し、不具合の原因や、それへの対策を見つけ対処するまでを自動的に実行することも可能になっている。
AIエージェントの活用は日本国内でも始まっている。横川電機とJSRは、科学プラントで製品を精製するための蒸留層をAIエージェントで自動制御し、品質や蒸留塔の液面レベルを適切な状況に保つとともに、排熱を熱源として最大限活用するという目標を達成した。
ダイキン工業と日立製作所は、異常の状況から原因と対策を提示するAIエージェントを発表した。ほかにも予防保全や品質検査の自動化、半導体製造の工程最適化や歩留まり現象などへと、AIエージェントの活用分野は広がっている。
現状の課題解決にとどまらず製造/工場の将来ビジョンを描け
今後、製造現場にロボットやAI技術が浸透していけば、現場のリアルタイムなデータを収集・分析し、生産計画の作成や、品質異常の検知、工程間の調整、設備の予防保全など、さまざまな計画や運用の自動化・自律化が可能になる。それも1つの工場だけでなく、関連工場やサプライチェーンを含んだ生産・在庫・物流の最適化なども図れ、製造の世界は大きく変わる。
ドイツ政府が2011年に提唱した「Industrie 4.0」は現在、AI駆動による自律型工場の実現へと目標を変え工場全体を最適化する流れへ進化している。日本もフィジカルAIに、官民で2040年度までに10.5兆円の投資を決めた。投資先は、単体のロボットだけでなく、AGVや産業用ロボット、AIエージェントなど幅広いテーマを掲げている。
製造DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むには、現在の問題や課題解決にとどまらず、AI技術/ロボットによって変わる社会や経済、工場を先取りした製造/工場のビジョンを策定し、そこで必要な機能を明確にした大きな変革を目指したい。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。