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「5G SA」から始まる変革のためのネットワーク【第107回】

『6Gを視野に足踏み続く5Gの現状とこれから【第102回】』で、5G(第5世代移動体通信)の現状と、その発展について述べた。だが、その後、AI(人工知能)技術の普及により、ネットワークの使い方が変わってきたり、基地局からコアネットワークまでの全てを5G専用設備で構成する「5G SA(Standalone)の本格化が世界中で始まったりと変化が起こっている。今回は、これらのネットワークの現状と未来を見てみたい。
スウェーデンのエリクソンが発表した2026年の『モビリティレポート』によれば、モバイルネットワーク提供会社のネットワークトラフィックは、55社中43社でアップリンクの増加率がダウンリンクよりも高く、うち17社ではダウンリンクの1.5倍以上の増加率を記録した。アップリンクのトラフィックが増加している理由としては(1)AI(人工知能)、(2)新デバイス、(3)ユーザーの使い方の変化がある。
理由1:AI学習のためのデータ収集
AIモデルの学習やサービスのパーソナライズ化に向けたデータを収集するために、端末からクラウドへの継続的なデータ送信が増えている。例えば、AIネイティブなスマートフォンでは、写真・音声・行動データをクラウド上のAIシステムに送り、それらの分析により、高度な推論やパーソナライズをクラウド側で実行している。
理由2:新デバイス
自動運転車やドローン、スマートグラスのような新デバイスの登場により、センサー情報や画像を常時アップロードする必要が生じ、データ伝送が増えている。
理由3:ユーザーの使い方の変化
端末のインテリジェント化やAI技術の利用が広がり、動画撮影、SNS投稿や、ライブ配信のための動画収集など、端末を使ったコンテンツのアップロードが増加している。端末側で生成AIが生成したコンテンツをクラウドへ送るケースも増えアップロードが増えている。
このように、端末のAIネイティブ化によって、端末からクラウドへのアップロードを伴う処理が広がってきた。それにより、モバイルトラフックは、これまでのビデオやゲームなどのコンテンツ消費による“ダウンロード中心の時代”から、データや映像をクラウドへ吸い上げクラウド側で分析や処理を実行し端末とクラウドがやり取りする“連携の時代”へと変化しつつある。
モバイルトラフィックを提供するインフラが5G(第5世代移動体通信)である。エリクソンの『モバイルレポート』は、2026年第1四半期に世界で1億6200万件の新規5G契約が追加され、5Gの総契約数は31億件に達したとする。世界で約390社の通信事業者が5Gサービスを提供しており、モバイルデータトラフィックのうち5Gで処理される割合は48%に達している。
5G SAのネットワークスライシングの実利用が増えている
5G本来の機能を発揮する「5G SA(Standalone)」も90社以上が提供している。5G SAは、地局からコアネットワークまでの全てを5G専用設備で構成する通信方式で、これまでのモバイルネットワークを大きく変える機能を持っている。
その1 つがネットワークスライシングだ。1つのワイヤレスネットワークをスライシングし、仮想的に複数のネットワークとして、異なる通信品質やセキュリティを持たしたネットワークとして柔軟に提供する。DX(デジタルトランスフォーメーション)のために必要なネットワーク品質を持つ複数のネットワークを1つのワイヤレスネットワークで実現できる。
ネットワークスライシングを使った接続サービスは世界で増えつつある。通信会社やネットワーク機器ベンダーのサポートのもと、実業務に使う動きが高まっている。ネットワークスライシングにより、さまざまな品質やセキュリティ要件のネットワークを同一の5Gネットワーク上に構築することでDXの進展を加速させる。いくつかの例を見てみたい。
製造業領域
独メルセデスベンツとエリクソンは、工場内にAGV(自動搬送車)の運行やロボット制御、設備監視、映像検査などのために専用の仮想ネットワークを構築している。高信頼・低遅延のネットワークスライシングにより、低遅延が必要なAGVやロボット制御と広帯域が必要な映像検査のように、それぞれが必要とするネットワークを提供する。別のスライスを使い工場の機械からデータを収集し、その分析により工場の稼働状態を監視したり運用効率を高めたりも可能になる。
物流・倉庫領域
ドイツDHLとオランダの通信会社KPNは、倉庫内のAGVやロボット向けのスライシング技術を使ったネットワークを活用している。AGV専用、映像検査用、在庫管理システム用に、仮想ネットワークを使い分けることで、AGVの停止を最小限にし、自動化率を高めている。
医療・遠隔手術領域
中国のHauweiとでは、通信会社のChina Telcomは、スライシング技術により超低遅延・高信頼性なネットワークを構築し、手術ロボットや高精細映像伝送、医療データ収集のための仮想ネットワークを構築し、遠隔手術への活用を図っている。