• Column
  • 大和敏彦のデジタル未来予測

「5G SA」から始まる変革のためのネットワーク【第107回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2026年8月24日

 屋外での活用事例もある。

自動車向け車載ネットワーク領域

 メルセデスベンツとドイツテレコムは、車両向けのスライスネットワークの実現を目指している。車両向けの専用低遅延ネットワークにより、車両の通信が他の通信の混雑の影響を受けずに、自動運転車の監視や遠隔操作、車両診断データの収集、OTA(On The Top)によるアップデートの高速化を可能にしている。

公共安全ネットワーク領域

 米国では、警察・消防と救急医療機関、および通信会社のAT&Tが相互運用するブロードバンド通信ネットワーク「FirstNet(First Responder Network)」が稼働している。防犯・防災、緊急医療の高度化を図るのが目的で、消防・警察・救急のそれぞれ優先したスライシングにより、災害時でも途切れない通信を実現する。ドローンなどの映像をリアルタイムに伝送することも可能になる。

5Gの利用を容易・安価にするためのAI活用も進む

 5G SAが持つ、DXに関係するもう1つの技術が「5GRedCap」である。正式名称を「NR-RedCap(New Radio Reduced Capability)」で、5Gの簡易化端末への通信を標準化したものだ。SA環境で10メガ〜50メガビット/秒の中速通信を低消費電力・低コストで提供する。低電力化のために、帯域の削減や、使用してないときの停止、必要以外の機能を削除などを実行する。

 今後、製造IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、産業向け配電や太陽光発電の監視、環境、灌漑などのスマート農業、ヘルスケアにおけるウェアラブル医療機器などの分野での活用が期待されている。

 ネットワークスライシングや5GRedCapの現場適用が加速するためには、5Gの安定性・安価化・使いやすさが必要である。スライシングによってスマホとは違った料金体系を提供することが可能になる。大量のネットワークを使う企業への料金引き下げなどにより企業の使用が増えれば、契約数を増やせる。通信会社のマネタイズに関しては売り上げを高めるとともに、コストを削減する必要がある。

 通信会社のCAPEX(Capital Expenditure:設備投資)やOPEX(Operating Expenditure:事業運営費)を下げるコスト削減策としては、オープンなRAN(Radio Access Network)である「Open-RAN」や、基地局の機能をソフトウェアで実現し汎用サーバーやクラウド上で実行する「vRAN」なども現れている。

 例えばソフトバンクは「AI-RAN」と呼ぶ計画を進めている。基地局の制御装置を仮想化し、余剰のコンピュータパワーをAI(人工知能)処理に活用する。1つの制御装置で通信とAI処理の両方を実現することで、消費電力の削減と新ビジネスによる収入の増加を目指す。

 AI技術による自律化もOPEXの削減に貢献する。AI技術の使い方について米NVIDIAが調査した『通信業界における AI 活用状況:2026 年トレンド調査』によれば、調査対象者の66%がAI技術を積極的に活用し、その効果として、収益の増加、コスト削減、 AI 活用イノベーションの構築が挙げられている。

 AI技術活用のユースケースとしては、過去の調査では顧客体験とサポートが 上位だったものが今回は、ネットワークの自動化が主要なユースケースになっている。注目対象としては、ワイヤレスネットワークのAIネイティブ対応とエージェント型AIが挙がる。AI技術を活用して自動化を図り、収益の増加やコスト削減を実現する方向に向かっている。

ユースケースの水平展開が不可欠に

 5G SAの本格化によって、5Gがスマホのネットワークから、企業や社会ネットワークへと変貌する。必要なネットワーク品質やセキュリティを実現する仮想ネットワークの実現が容易になり変革のスピードは上がる。そのためには、5Gの機能をより簡単に、かつ安価に利用できなければならない。

 DXへの活用では、ネットワークスライシング活用のユースケースの水平展開を図る必要がある。そのユースケースには、5GだけでなくAI技術を統合したモデルも必要だ。ネットワーク、AI、システムを統合したソリューションを提供できる体制と、それの水平展開が重要になる。

 ネットワーク自体も進化していく。5Gの機能も5Gアドバンスドとして、高速大容量、超低遅延、高信頼性通信、大規模IoTなどの機能拡張がなされる。6Gでは、さらなる高速性・低遅延・同時接続性の向上に加え、AI技術による自律性の向上や低電力化、高いセキュリティや国土カバー率の向上が図られる。それらをうまく使った社会変革を進めていかなければならない。

 仕事や社会、生活の変革のためのインフラになるためには、5Gの成功事例が不可欠であり、かつ5G SAの展開の成功が基礎になる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。