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同じCDO、最高デジタル責任者と最高データ責任者の違いは?

水上 晃(CDO Club Japan事務総長)
2017年11月6日

「CDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)」という役割が注目されている。一方で、「CDO(Chief Data Officer:最高データ責任者)」という役割も存在している。両者の定義と役割について混同されやすい状態になっているのが実態だ。実際、企業によってDigital Officer/Data Officerなどの設置状況や担当する内容も大きく異なっている。

 CDO Club Japan★は、CDO(Chief Digital Officer)間の情報交換をうながす非営利の団体だ。当CDO clubでは、最高デジタル責任者と最高データ責任者のそれぞれが必要な役割だと認識し双方を区別している。

 最高データ責任者は、ビックデータが注目された時期に定義づけられた役割である。企業内あるいは外部のデータを活用して企業の意志決定の高度化や、データに基づく新たな発見をすることがミッションである。

 求められる能力(ケイパビリティ)は、データ活用のリテラシーならびにデータ分析の知識を重視するケースが多い。情報システム部門からその役割を担う責任者が輩出されている事例が多く見られる。

 これに対し最高デジタル責任者は、データ活用に加えて、データを活用した新たな事業の創造や、顧客接点のデジタル化から組織全体の変革ならびにプロセスの抜本的な変革までを担うケースが少なくない。出身部門も、情報システム部門よりは、事業企画、経営企画、マーケティングなどの知識を有する部門であることが目立つ。

 しかしながら、両者ともに「データに基づく」ことと「経営モデルを見直す」という視点では同じミッションを有している。その意味では、デジタル責任者とデータ責任者は協調・協力してミッションを遂行することが望ましいとも言える。

外部環境の急速なデジタル化が新たな牽引役を求める

 ここからは、最高デジタル責任者の意味で「CDO」の略称を用いるが、データ責任者が存在するなかで、CDOが急速に認知され登用され始めているのはなぜだろうか?これまでも新規事業開発やデータ活用などの取り組みは、各企業が実施してきたはずだ。それでもなお専任者が配置され始めている背景を考察すると以下が主な理由であると考えられる。

理由1:外部環境の急速なデジタル化への対応

・規制緩和による競争激化
・「デジタルディスラプター(破壊)」と呼ばれるデジタルネイティブな企業の出現 など

 「Uber」や「Airbnb」のように、経営資源を自身では持たずに既存産業に参入してくるデジタルディスラプターは、規制緩和により自由化が進む産業、特に金融・保険業界やエネルギー業界などでは、大きな脅威になると予想される。それらへの対応を含め、自社の事業モデルを再定義することが緊急の課題になっている。

理由2:急速に発達するデジタル技術の知見が旧経営陣には乏しい

・デジタル分野特有のトライ&エラーのアプローチによる意志決定スピードの対応が困難
・新分野への参入など合議制では判断がしづらい状況への対応 など

 デジタル技術の発展は目覚ましく、クラウドやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、ロボティクス、AI(Artificial Intelligence:人工知能)といった新分野の技術が台頭している。従来の経営者の知識や成功体験ではカバーできない領域が増えており、それは今後も拡大傾向にある。

 こうした理由からCDOには、(1)社外の有識者を“責任者”として迎え入れる、(2)自社内でも“異色”もしくは“新分野への深い洞察”をもっている次世代人材を配置する、といったケースが多いようである。

CDOは自社ビジネスを再定義し新規事業を創造する

 ではCDOの企業における役割とは一体なんであろうか?上記の背景や現在活躍しているCDOが取り組んでいるテーマや内容から、以下のような役割だと定義できる。これをCDO club Japanでは「CDO ver1.0」と位置付ける。

【ミッション・役割の定義】
デジタル化が進む環境の中で「自社のデジタル変革」を「経営の視点」で「全社的規模」で推進し、デジタル化後の経営環境での「自社の事業定義を再創造する」ことをミッションとする存在

【主な役割】
デジタル技術を活用して企業の変革を以下の領域でけん引する
・データ活用の高度化推進
・業務プロセスをはじめとした種々の自動化
・顧客接点のデジタル化と顧客体験の変革
・デジタル技術を活用した新規事業の創出

 これらは、企業のこれまでのドメインや業種によって多少異なることがある。だが汎用的に表現すれば、上記4つの領域におけるアジェンダに対し、次の取り組みを推進するのがCDOの役割である。

・デジタル化戦略の立案
・変革実行計画の策定
・技術調査と導入戦略の策定
・デジタル人材の育成
・事業創出の仕組みの構築と運営
・プロセスの革新と運用
・情報活用基盤の構築と運営

 このようにCDOには、様々な領域におけるケイパビリティと経験が求められる。そして、そんなCDOを設置し運営していくことは、企業にとって非常に難しいテーマだ。それだけに、候補者を社内に求めることが困難な企業も多いと思われる。

 海外ではすでに多くのCDOが、CDO clubというコミュニティをバックグラウンドにCDOの活動の加速・高度化が始まっている。CDOを目指す人、あるいはCDOを必要とする企業の経営者にも参加資格がある。

水上 晃(みずかみ・あきら)

CDO Club Japan事務総長。大手上場企業で経営企画職を経験後、コンサルティング業界に転身し、デジタル分野の専門コンサルタントとして活動。ICT(情報通信)分野に特化したコンサルタントしてICTを活用した新しい取り組みを多数実施。IoTを活用したビジネスモデルの提案、ビックデータ時代のデータドリブンサービスの展開、ロボットを活用した新しいB2C/B2B産業の創出、デジタルコンテンツプラットフォームをベースとしたソフトウェア流通モデルの創出などがある。