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DX推進における日本のボトルネックは経営者の理解?【第23回】

水上 晃(CDO Club Japan理事・事務総長)
2019年9月11日

欧米ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進役として、CDOというデジタルリーダーの設置は一般化しつつある。世界のCDO(Chief Digital/Data Officer)らが集うCDO Club Globalでは2019年7月だけで16人の新たなCDOが生まれた。しかし日本では、認知度は高まりつつも設置企業はいまだ少ないのが実状だ。

 デジタル時代の事業運営において、データ活用やデジタルテクノロジーの活用は必至になる時代が始まっている。そのためグローバルでは、CDO(Chief Digital Officer/Chief Data Officer:最高デジタル責任者/最高データ責任者)やデジタルデータ分野の最高責任者などを多数の企業が募集している。ビジネスモデルのデジタル化や競争力強化のためのデータ活用に取り組むためであり、デジタル領域のエキスパートを経営執行職として招聘する動きが一般化しつつある。

 CDOを設置する業界も多岐にわたり、企業だけでなく公共団体や教育機関にも広がっている。たとえば、デニム衣料のカジュアルブランドであるぺぺジーンズロンドンや、血液ガンの慈善団体のBloodwise、コラボレーションツールなどに強みを持つITサービス事業者の米NCC (National Capitol Contracting)、閉域監視カメラ(CCTV)を提供する英Custodia、金融コングロマリットのクレディスイス、サンノゼ州立大学やシドニー工科大学などが、CDOを募集している。

 CDO Clubの日本の運営団体であるCDO Club Japanにおいても、当初数人だったCDOの数は2019年7月時点で50人を超えた。日々、CDOの設置や加入に関する相談が増えてきており、CDOの認知やデジタルトランスフォメーション(DX)の必要性に対する理解が浸透しつつあると感じられる。

 しかしながら、日本企業ではCDO 設置企業は、全体としてみれば少なくい状態である。DXの取り組みについても、デジタルマーケティングなどの領域に限定されていたり、一部の部門でトライアル的にRPA(Rbotics Process Automation)やAI(人工知能)などの技術検証的にとどまったりしているケースが圧倒的だ。

 デジタルシフトが進む産業構造の中で、組織の生き残りをかけたDXを日本企業が取り組み始めるには、まだ一定の時間がかかると予想される

急速な変化への焦りを感じる世代と経営者層とにGAPが

 そのような状況に陥っている原因は何か?CDO Clubでは調査や有識者からの意見収集を継続的に実施している。2019年4月には、デジタル変革に対する意識調査をインタネットを使って実施した。

 その調査によれば、「デジタル改革が進まない理由」として最も回答が多かったのは、「経営者層の知識・理解不足」だった(図1)。それに「技術に対する知識を持った人材の不足」、そして「推進する能力のあるリーダー(CDO)の不在」が続く。

図1:「デジタル改革が進まない理由」に対する回答(CDO Club Japan調べ)

 昨今、DXというキーワードは認知され始めており、多くの企業がなんらかのデジタルの取り組みに着手しつつある。しかしながら、経営トップを含めた全社的な理解がないままに進めるDX活動は、一過性の“その場限りの活動”になることは否めない。

 DXは時限的なテクノロジー導入の活動ではない。デジタル時代に向けてビジネスモデルをリノベーションすることだ。より広く多くの企業がテクノロジーの変化によって起きる影響を適切に理解し、変化し続けられる企業になることを期待したい。

水上 晃(みずかみ・あきら)

CDO Club Japan理事・事務総長。大手上場企業で経営企画職を経験後、コンサルティング業界に転身し、デジタル分野の専門コンサルタントとして活動。ICT(情報通信)分野に特化したコンサルタントして、ICTを活用した新しい取り組みを多数実施してきた。具体的には、IoTを活用したビジネスモデルの提案、ビックデータ時代のデータドリブンサービスの展開、ロボットを活用した新しいB2C/B2B産業の創出、デジタルコンテンツプラットフォームをベースにしたソフトウェア流通モデルの創出などがある。