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カナダ発、CDO Summit Torontoで出会ったCDOからの示唆【第3回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事 兼 広報官)
2017年12月4日

CDO(Chief Digital Office:最高デジタル責任者)の認知度は、日本ではまだ低い。だがグルーバルでは、企業はもとより、省庁や自治体もがCDOを設置している。CDO Club Globalの会員数も全世界では、2017年10月時点で5000人を超えた。CDO Club Globalがカナダのトロントで2017年10月25日、ネットワーキングイベント「CDO Summit Toronto」を開いた。同Summitで出会ったCDOとのインタビューから得られた示唆を紹介する。

 カナダのトロントは今、未来都市構想を掲げ、ディープラーニング(Deep Learning:深層学習)やAI(Artificial Intelligence:人工知能)の拠点となるべく優秀な研究者を集めている。先頃には、米グーグルがトロント大学のAI研究施設に拠出することを発表するなど、注目もされている。

 そのトロントで、CDO Club Globalが主催したイベントが「CDO Summit Toronto」だ。出席したのは、グローバル企業のCDOのほか、CEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)やCMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)など約100人。それぞれの組織での取り組みや事例の発表、「CDOになって最初の100日」の紹介などにより、各人のノウハウや課題などを共有した(写真1)。

写真1:「CDO Summit Toronto」でのセッションの様子

コンピューター以外のバックグラウンドを持つCDOも多い

 筆者も同Summitに参加するとともに、登壇したCDOのうち6人に個別インタビューする機会を得た。そのうち、カナダのオンタリオ州とメディア企業ZoomermediaのCDOを紹介する。

 Hillary Hartley氏は、オンタリオ州のCDO兼デジタルガバメントの次官を務める(写真2)。同州には、カナダの全人口の4割に迫る1400万人が居住している。Hartley氏のミッションは、住民に対し政府が提供するサービスを見直すために、各省庁を横断したデジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)を加速し、デジタル技術を通じて人々やビジネス、政府機関の連携をスムーズにすることだ。

写真2:カナダ・オンタリオ州のCDO兼デジタルガバメントの次官を務めるHillary Hartley氏

 Hartley氏は大学卒業後、テクノロジー企業で統合型マーケティングコミュニケーションのディレクターを務めた後、オバマ政権において「Presidential Innovation Fellow」として情報戦略を担った。その後、米連邦調達庁にてコミュニケーションとデジタルサービスに関するプロジェクトの共同創設者ならびに副代表を務めていたところ、オンタリオ州にヘッドハンティングされた。

 経歴から得られるイメージとは異なり、非常にフレンドリーで物腰の柔らかい方だった。大学での専攻は、コンピューターサイエンスやプログラミングではなく、社会学である。Hartley氏は、「ニーズの本質を読み解くには、人々の行動を見極める必要がある。組織の文化を変える際にも、当時の学びが今の仕事に影響を与えている」と話す。

 Omri Tintpulver氏は、カナダのメディア企業ZoomermediaのCDOである(写真3)。同社にヘッドハンティングされるまでは、別のメディア企業のCIOを務め、データやITシステム、カスタマーサービスなどを管理していた。同氏の専攻もコンピューターではなく、大学院では英文学を研究した。Tintpulver氏は、「研究時の、既存の枠にとらわれない柔軟で自由な発想力が、変革を求められる今の仕事に生きている」と言う。

写真3:加ZoomermediaのCDOであるOmri Tintpulver氏(左)と筆者

CDOにはコーディネーション能力やコミュニケーション能力が必要

 海外のCDOとの交流を通して強く感じたことに、「CDOはリーダーではなく、“貢献”や“触媒”“変化を与える役割”という印象が強い」ということがある。そのため、彼らは、高いコーディネーション能力やコミュニケーション能力を備えている。

 縦割りの組織において、部署を超え横串で価値を再定義し、既存の事業内容や組織のあり方を見直していくには、従来の強いリーダーよりも、むしろ組織の中で“浸透していくタイプ”の人のほうが相性は良い。社内システムや、データ管理を担うスタッフはもとより、顧客の声を傾聴し、社内外をコネクトしていくのがCDOの役割の本質ではないだろうか。デジタル化は単に技術を利用することではなく、業界や企業、組織を通した価値を再創造することである。

 その意味で、CDO Summitの登壇者は女性の割合が高く、出席者も男女のバランスが取れている(写真4)。これはトロントに限ったことではなく、欧米や中東、豪州など世界各地で開催されているCDO Summitに共通だ。

写真4:CDO Summitの登壇者は、開催地を問わず、女性の割合が高い

 もちろん、スキルには個体差があり、一般化には議論の余地があるものの、女性のほうが、コーディネート/コミュニケーションにおいては“しなやかさ”に長けているとされる。日本においても、CDOは女性が活躍できる場としても注目できそうだ。

欧米型経営手法を受け入れることが限界に

 また一般にCIOは、社内システムや情報の管理を担い、CDOと連携かつ補完し合う関係にある。Tintpulver氏のように、CIOからCDOになるケースをみれば、日本においては、CDOよりも、「戦略CIO」や「クリエイティブCIO」といった呼称のほうが受け入れられやすいのかもしれない。

 同じ観点から、日本では現状、数が少ないCDOも、日本のビジネスとの親和性は高いのではないだろうか。日本は“ハーモニー”や“和”を重んじてきた。だが今の日本は、欧米型の経営手法を受け入れる過程において、自らのアイデンティティを維持することが限界にきたことが、昨今のデジタル化で露呈しているようにみえる。

 これまでの経営資源(資金調達力、強固なブランド力、顧客基盤)とは異なる、デジタルに立脚したイノベーションを資源に持つディスラプター(破壊者)の出現により、大手企業は今、既存事業から得ていた収益を減らしつつある。

 そのなかで、CDOに求められる役割を考えることは、デジタルトランスフォーメーションが進む、このデジタルな世界で日本企業が生き残っていくための方法を考えることにほかならない。CDO Summit参加者が口をそろえるように、「業界を超えたつながりは非常に価値がある」はずだ。

 CDO Club Japanは2017年11月20日に一般社団法人になった。企業や、政府/自治体、非営利団体のデジタル改革の促進を目指し、そのアクセラレーターとなるCDO設置の普及啓蒙から、活性化、交流、人材育成、人材提供、コンサルティングサービスなど、活動の幅を広げ、加速化していきたい。

鍋島 勢理(なべしま・せり)

CDO Club Japan 理事 兼 広報官。青山学院大学卒業後、ロンドン大学University College London大学院にてエネルギー政策を学び、鍋島戦略研究所を設立。現在は外交問題、サイバー攻撃について研究。海外の企業や省庁、自治体のデジタル化への対応と私たちの生活に与える影響を研究しつつ、日本の組織がデジタル化への対応が乗り遅れている現状に危機意識を抱き、CDO Club Japan広報官に就任。国内外のCDOと交流を図り、組織へのCDO設置を啓蒙している。オスカープロモーション所属。