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「可視化」でビギナーズラックもAmazonの戦略も理由が見えてくる【第4回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2017年12月25日

正規分布の「右側」や「左側」が重要になってきている

 最近は世界の資産が集中する傾向が強まっている。米国では、1%の上位層が40%の資産を占める。あるいは、上位3%が資産の54%を占めるとも言われる。ロシアでは、上位110人が持つ財産が全体の35%を占め、中国では、上位10%が総資産の3分の2を占める。英国のトップ1000人の総資産は、GDPの3分の1に相当するとも言われる。これらは、(対数)正規分布の右側に現れる例であり、それを挙げればきりがない(図4)。

図4:正規分布の「右側」や「左側」にビジネスチャンスが潜む

 米国の小売業界でも、2017年の小売店舗の閉鎖件数は、金融危機の2008年の6163店舗を超えて過去最高になりそうだ。実店舗を訪れている人の10%が実店舗に行くのを辞めると、小売業界は破滅するとも指摘されている。代わりに付加価値が高い高級品の売り上げは伸びている。各種戦略を立てる場合、(対数)正規分布を参考にするのなら、左右の領域を必ず分析しなければならない。

 では(対数)正規分布の左側は、どうだろうか。ネット上の悪質なクレームは、左側のごく一部の人が炎上を起こし、それが平均値・最頻値のように思わせており、全体像とは全く違うものである。だからリスク管理の手法が、データ分析では不可欠になる。クレーム処理でも、社員のアンケートや顧客満足度調査でも、左側の層をどう扱うかにかかっている。

 左側単独の単純なビジネスは難しい。小売業界で言えば、付加価値がなければ価格は思い切って安くするという割り切りが大切だ。あるいは、正規分布の左側をまとめて大きなパワーにするビジネスモデルを創出しなければならない。最近、注目を集めるビジネスは、これに尽きる。クラウドファンディング、クラウドレンディング、シニアクラウドといったクラウドビジネス(crowd business)が、その代表だ。

AmazonがWhole Foodsを買収した理由

 米国ではAmazon.comが新規に参入する業界で波乱が起きている。これを「アマゾンパニック」と呼ぶ。そのアマゾンの戦略も正規分布から読み取れる。

 x軸を消費者の資産額や購入額とすると、x軸の左側の層は「価格」を、x軸の真ん中は「便利さ」を、x軸の右側は「鮮度」を追求していると言える。Amazon.comが、商品の新鮮さをウリにする米Whole Foodsを買収したのは、これまでの価格や便利さをウリにするだけでなく、x軸の右側も攻めている証拠なのだ。

 かつて存在しなかった新商品も、出現してすぐは正規分布のx軸の右側に位置する。それが時間とともに、真ん中になり、それから左側に移っていく。その際、正規分布の真ん中に入るスピードは坂を上るようにゆっくりで、それから左側に行く際は、まさに下り坂を猛スピードで降りるごとく急である。

 同様に、メーカーが作り出す新商品やサービスを消費者が購入する場合、正規分布の右側から左側へ、「イノベーター(革新者)」「アーリーアダプター(初期採用者)」「フォロワー(初期大衆)」「レイトフォロワー(後期大衆)」「ラガード(採用遅延者)」が並ぶ。

 当然、現在のビジネスの中心は平均値の周りの95%であるのは事実である。売れ筋商品が売り上げの根幹をなす。そうでなくても、得意客からのリピート率が高ければ、商品ラインからは外れない。ただ未来を予見し、データによるイノベーションを起こすには、左右の5%にも注目しなければ真実は見えない。