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  • 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法

データ分析の王道としての順問題と逆問題を理解する【第11回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2018年7月23日

逆問題では“勘と経験と度胸”が効く

 一方、逆問題とは、結果から原因を推定する問題だ(図3)。統計が、この領域に入り、物理学や臨床医学など様々な分野で応用されている。不鮮明な画像を復元するのも、“機能”に見合った“構造”を探すのも逆問題である。身近な例では、「新幹線のパンタグラフにおける風切り音を抑えたい」という“機能”を実現したいときに、その“構造”をフクロウの羽根に真似たのも逆問題だと言える。

図3:逆問題の流れと適用分野

 逆問題が成功するかどうかは、次の3点を用意できるかどうかにかかっている。

(1)勘と経験と度胸(KKD)
(2)アルゴリズム
(3)経験モデル

 逆問題の流れを示したのが図4だ。経験者の“勘と経験と度胸(頭文字を取って「KKD」)”で得たアナログデータを可能な限りデジタル化する。閾(しきい)値を決めて、その値を上回る、あるいは下回ると警告を出す。経験値を数値化したものをモデルとして表現する。デジタル化し、そしてモデル化する場合に必要になるのが「アルゴリズム」だ。

図4:逆問題における分析の流れ

 次に、ツールを用いて解析する。生のアナログデータに近いものを使っても構わない。可視化・分類されたものを観察し検証していく。結果の原因が理解できれば、次は対策である。これもDIKW(Data、Information、Knowledge、Wisdom)の流れになる。

 順問題でも逆問題でも、ツールとしてAI(人工知能)を用いる場合、ディープラーニングとベイズ法の違いは知っておいたほうがよい。ディープラーニングはボトムアップ方式であり、AIが生データで学習して成長していく。これに対し、ベイズ法はトップダウン方式で、新しい概念の例をAIに1つ与え、AIが類例を認識すれば、様々なパターンに対応できるようになる。

 大量のデータが必要、もしくは、類似問題しか解けないといったディープラーニングの弱点を補うため、「GAN(敵対的生成ネットワーク:Generative Adversarial Networks)」がある。GANは、敵対するAIをだます中で実在しそうなデータを作り出し、成長しながら想像力を獲得していく。

究極は「複雑なデータを単純に分析する」こと

 なお順問題・逆問題にかかわらず、分析対象には単純と複雑の2つがある。分析方法も単純と複雑の2種類がある。組み合わせれば4つに分けらえる。

(1)単純なデータを単純に分析=誰でも容易にできること
(2)複雑なデータを複雑に分析=努力してできること
(3)複雑なデータを単純に分析=閃き(ひらめき)が必要なこと
(4)単純なデータを複雑に分析=一番避けねばならない方法

 簡易的にデータ分析するならば(1)で十分だ。特に逆問題の場合は、高価なツールを使う必要はない。分析者の中には、たとえば「Excelは信用できない」としてExcelを批判する人がいる。だが、それは分析者のExcelの使い方が悪いだけである。

 逆に、役に立たないツールのほとんどが(4)であることは指摘しておかなければならない。単純なデータを意味もなくグラフで表現するだけでは、何も生まれない。

 順問題で分析を頑張れば頑張るほど、どうしても(2)になりがちである。データに埋もれて本来の目的を見失うパターンだ。究極は、(3)を目指さねばならない。そのためには学校では教えてくれない、自らに合った分析法を習得する必要がある。

 次回は、データ分析の手順とポイントを中心に述べたい。

入江 宏志(いりえ・ひろし)

DACコンサルティング 代表、コンサルタント。データ分析から、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンター、人工知能など幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラ、データの4つの観点からコンサルティング活動に携わる。34年間のIT業界の経験として、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、Dimension Data、Protivitiで首尾一貫して最新技術エリアを担当。2017年にデータ分析やコンサルテーションを手がけるDAC(Data, Analytics and Competitive Intelligence)コンサルティングを立ち上げた。

ヒト・モノ・カネに関するデータ分析を手がけ、退職者傾向分析、金融機関での商流分析、部品可視化、ヘルスケアに関する分析、サービスデザイン思考などの実績がある。国家予算などオープンデータを活用したビジネスも開発・推進する。海外を含めたIT新潮流に関する市場分析やデータ分析ノウハウに関した人材育成にも携わっている。