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ビッグデータの法則:その2=振り子現象、すべては繰り返す【第21回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2019年5月27日

第19回から、ビジネスやデータ分析に役立つ考え方として、筆者が「ビッグデータの法則」と呼ぶルール群について解説している。前回は、新元号「令和」が発表されたことから予定を変更し、元号を国のブランドとして分析した結果を紹介した。今回は、ビッグデータの法則に戻り、2つ目の法則である「振り子現象」について解説する。

 振り子現象とは、AとBの2つの事象が繰り返し発生する状況を指す。筆者の分析経験においても、振り子のような繰り返しを数多く見てきた。人・モノ・金・ブランドなど、社会や企業にとって必要な資産の特徴はデータに如実に表れてくる。地震や火山の噴火など予知が難しい領域であっても、過去のデータを分析し振り子現象を発見できれば、予知に匹敵する効果を得られる。

 社会現象には、さまざまな繰り返しがある。以下では振り子現象の例として、社会の「集中と分散」「米と金」「左極と右極」を紹介する。考古学・歴史学では諸説あるという前提で説明したい。

人口は集中と分散を繰り返している

 人に関する振り子現象に人口の集中と分散がある。縄文時代の日本人は東日本に数多く住んでいた(図1)。その理由は明確だ。主な食糧にしていた鮭やクルミが豊富で、狩猟が容易だったために東日本で人口が増えたのである。

図1:日本における人口の集中と分散

 縄文時代後期に稲作が北九州に伝わって以後、弥生時代には、稲作に適した温暖な北九州・西日本・近畿で人口が増える。同地で日本人は開墾を進める。平安時代には震災が起こりやすい時期が30年以上続くが、西日本を開拓し尽くした人々は鎌倉時代に入り関東の地に米作りの場を求めた。人口が集中すると都市は繁栄し、新しいことが起こってくる。

 世界では人口が10億人に達するのに10万年がかかったが、そこから倍の20億人になるのには、たった100年。その後の100年で3倍の60億人にまで増えた。このように増えるパワーは圧倒的だ。

 当然、反動による人口減も起こる。マクロ的にみれば日本では過去4回、人口減が起こっている。上述した縄文時代の後半と、 平安時代の後半から鎌倉時代初期、江戸時代の後半、そして平成の後半である。

 ただし分散が悪いというわけではない。人口の分散、つまり地方分権が進んだ時には、特産品が開発されネットワーク網(運輸等)が発達し、イノベーションが起こりやすい。

経済は米と金を繰り返している

 歴史的に、人にとって大切な経済は米と金の間で繰り返し循環されている。日本では弥生・飛鳥・奈良の時代が米中心の経済だった。ここで米中心と言っているのは、米そのものだけでなくモノ(食糧)という広い意味もある。

 米の量を表す単位に「石(こく)」がある。1石は概ね成人が1年間に消費する量である。石高で雇える家臣の数が推定できる。藩の規模も百万石などと米の単位で表した。

 金中心の経済が初めて現れたのが平安時代である。その後、米と金が振り子のように動き、経済の中心が入れ替わる(図2)。

図2:日本における経済の米中心と金中心の繰り返し

 人が生きている間に見られるのは、せいぜい50~100年程度だから、大きな流れの変化を感じ取るのは難しい。しかし、必ず揺れ戻しが起こることは知っておきたい。昭和後半〜平成は金中心の経済である。振り子現象で言えば次は米(食料)中心の経済になるが、令和の時代に、その揺れは起こるだろうか。