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  • Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか

変貌する世界の教室から将来のデジタルリーダーが生まれる【最終回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年7月8日

 2008年1月には英ロンドンで、Cisco、Intel、Microsoftをスポンサーに、P21の活動を拡大する「Assessment and Teaching of 21st Century Skills Project(ATC21S)」が始まった。2010年には米国、英国、オーストラリア、シンガポール、フィンランドといったデジタル先進国の常連が加わり、21世紀型スキルとして「4つの領域と10のスキル」を定義した(表2)。Knowledge(知識)、Skills(技能)、Attitude(姿勢)、Values(価値)、Ethics(倫理)の頭文字をとり「KSAVE」モデルとも呼ばれる。

表2 ATC21Sが提唱する4つの領域と10のスキル
領域スキル
1:Ways of Thinking1:Creativity and Innovation=創造性とイノベーション
2:Critical Thinking, Problem Solving, Decision Making=批判的思考、問題解決、意思決定
3:Learning to learn, Metacognition(Knowledge about cognitive process)=学びの学習、メタ認知(認知プロセスに関する知識)
2:Ways of Working4:Communication=コミュニケーション
5:Collaboration (Teamwork)=コラボレーション(チームワーク)
3:Tools for Working6:Information Literacy=情報リテラシー
7:Information and Communication Technology (ICT) Literacy=情報通信技術(ICT)に関するリテラシー
4:Living in the World8:Citizenship – Local & Global=地域と国際社会での市民性
9:Life and Career=人生とキャリア設計
10:Personal and Social Responsibility – including Cultural Awareness and Competence=個人と社会における責任、文化的差異の認識および受容能力を含む

 これらのスキルが提唱された背景としては、デジタル技術による社会や経済の進化と変化への対応の必要性が挙げられる。デジタルボルテックスの世界のように変化が激しい時代には、知識の習得ではなく、必要に応じて活用できるスキルの獲得が重要になるためだ。

デジタルディスラプションと無縁でいられる業界はない

 デジタルボルテックスの到来で予想不可能なパラダイムシフトが起こるなか、次世代のデジタルリーダーとして輝くために、世界の教室では既に新しいスキルの獲得競争が始まっている(図3)。

図3:デジタル時代に変貌を遂げる世界の教室

 AI(人工知能)や機械により仕事の代替が進む将来を考えれば、問題を独創的な方法で解決する力や、従来の常識に異を唱えることをいとわない勇気、失敗を恐れず失敗から学ぶ姿勢など、自身を差別化するためのスキルを教育課程から戦略的に身に付けることが求められるからだ。

 デジタルやITとは無縁だと思われていた業界にもデジタルディスラプターやデジタルプラットフォーマーの影響が及び、既存の業界構造が破壊されている。それを目の当たりにした今、デジタルディスラプションと無縁でいられる業界はない。

 この流れに既存の業界や企業が対抗するには、変化が起きるのを待つのではなく、市場や社会で満たされていないニーズを先取りしディスラプトする側に立つしかない。デジタルボルテックスの破壊の力学を理解し、新次元のアジリティを身につけ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の価値を最大限に生かせるかどうかがキーになる。

 なお本連載は今回をもって区切りとさせて頂く。長期に渡って本連載にお付き合いいただいた読者のみなさまに感謝を申し上げたい。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。