• Column
  • Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか

未来は予想できても実現できるとは限らない、Amazonエフェクトに震撼するリーダー企業【第19回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年5月13日

本連載の第1回(2017年11月13日公開)は次の言葉で始まっている。「デジタルディスラプション(破壊)により今後5年のうちに、これまで業界をリードしてきた企業10社のうち4社が姿を消すかもしれない」――。これは、「Global Center for Digital Business Transformation(DBTセンター)」が2015年に発表した研究調査結果から導き出した当時の予測である。あれから約4年が経過した今、どうやらその兆候が見え始めている。

 「Digital Vortex(デジタルボルテックス)」について話したり考えたりする際に、良く引き合いに出るのが米Amazon.comである。同社が仕掛けていく業界では、その影響を受けて業績や株価の低迷に悩む企業が増えている。これまでに顕著な影響を受けているのは、百貨店、スーパー、ショッピングモール、衣料品販売、メディアやコンテンツ業界などだ。

 たとえば2017年8月、Amazonがアメリカを代表する高級食品スーパーのWhole Foodsを買収した際、競合する食品スーパー各社の株価が軒並み下落した。このように業界の秩序が崩れていく事態は「Amazonエフェクト」と呼ばれる。Amazonエフェクトは業界を超えて幅広く波及し、多くの企業が追い詰められている。

 その象徴として「Death by Amazon:Amazon恐怖銘柄指数」と呼ばれるインデックスがあるほどだ。Amazonエフェクトにより収益の下振れが見込まれる小売関連銘柄約50社の株価を指数化したもので、米投資情報会社のBespoke Investment Groupが設定した。それほど大打撃を受ける企業が増え続けているのである。

 とりわけAmazonのコア事業である流通・小売業界は、その恐ろしさを実感しているだろう。第18回で取り上げたNieman MarcusやJ.C.Pennyのように、「Chief Transformation Officer」を外部から招き入れ、生き残りを賭けて対抗策を講じる企業がある一方で、かつての超優良企業がデジタルボルテックスの渦に飲み込まれてしまうケースも少なくない(図1)。

図1:Amazonエフェクトにより“ゲームオーバー”に追い込まれる企業が続出している

ゲームオーバーに持ち込まれたToys R Us

 2018年3月15日、米Toys R Us(トイザらス)が米国事業の清算を決断し、米国内の全735店を閉鎖した。創業69年の玩具販売大手は、米国事業の買い手を探していたが見つからなかったようだ。

 Toys R Usは1948年、米東部のニュージャージー州で子供用の家具メーカーとして創業した。創業後間もなく、家具に加えて、おもちゃの販売を開始し、チェーン展開によって事業を拡大していく。全米の都市郊外に大型店舗を出し町のおもちゃ屋さんを次々に飲み込んでいった様は、正にディスラプター(破壊者)であった。

 それが、Amazonをはじめとしたインターネット通販にカスタマーを奪われてしまい業績が低迷した。皮肉なことにToys R Usはかつて、Amazonで唯一の玩具販売業者だった。玩具販売のノウハウと顧客データを手に入れたAmazonは、Toys R Usの品ぞろえが十分ではないことを理由に、他の玩具業者を招き入れる。

 Toys R Usも独自にオンラインショップを立ち上げ、ネット販売を開始し対抗策に講じた。だが、とてもAmazonに太刀打ちできる訳はなかった。結果、経営破綻に陥ったToys R Usは、自らがトランスフォーメーションを起こす前に、2017年9月に倒産に追い込まれた。まさにAmazonエフェクトを象徴する出来事である。